更年期は「ほてり」だけではない

閉経の平均はおよそ50歳で、その前後5年ずつ、計10年ほどを更年期といいます1。エストロゲンが揺らぎながら減っていく時期です。ほてりや汗のほかに、肩こり、腰痛、関節の痛みも、更年期に起こりやすい症状として挙げられています12。

日本の女性では、とくに肩こりが多いことが知られています。川崎市の50歳の女性を調べた研究では、4人に3人が肩こりを感じていました。ほてり(3人に1人)より、ずっと多い数です3。米国の研究でも、閉経後の女性は閉経前の女性より、体の痛みが多くありました4。

2024年、米国の整形外科医らは、こうした関節・筋肉・骨の変化をまとめて「閉経の筋骨格症候群」と呼ぶことを提案しました5。まだ診断名として決まったものではありません。けれど、更年期の痛みを「気のせい」で済ませないための呼び名です。

ただし、痛みのすべてがホルモンのせいではありません。米国の女性を16年追った研究では、痛みや疲れは閉経の前から続いている人が多く、閉経をはさんでも大きくは変わりませんでした6。仕事や家族の負担、体重、睡眠も関わっています。

筋肉は、閉経の前後に落ちやすい

米国の女性を閉経の前後で追った研究では、体重は変わらないまま、からだの中身が変わっていました7。体重計では気づきにくい変化です。

フィンランドの47〜55歳の女性でも、閉経が進んだ人ほど、手足の筋肉と骨の量が少なくなっていました8。

閉経の前後、体重は同じでも中身が変わる米国の女性を閉経の前後で追った研究(DXAで測定)

時期脂肪筋肉など体重
閉経の前ゆっくり増えるゆっくり増えるゆっくり増える
閉経に向かう時期〜最後の月経の2年後増える速さが2倍に減り始める増え方は変わらない
その後横ばい横ばい横ばい

筋肉は運動で守れます。

出典:Greendale GA, et al. JCI Insight 2019;4:e124865(SWAN)

筋肉の衰えについては筋肉の衰えにも、名前がある ― サルコペニア、お腹の脂肪についてはお腹まわりは、巻き尺で測る、骨については骨粗鬆症があっても、筋トレはできると骨のために、何を食べるかにあります。

ホルモンの治療で、関節の痛みはどこまで変わるか

減ったエストロゲンを補う治療を、ホルモン補充療法(HRT)といいます。ほてりなどの更年期の症状に使われる治療で、日本のガイドラインは2025年に改訂されました9。

関節の痛みへの効果は、小さいけれど、あるというのが、今のところの答えです。閉経後の女性1万人あまりを、エストロゲンと偽の薬に分けた米国の試験では、1年後に関節の痛みがあった人は、偽の薬で100人中79人、エストロゲンで100人中76人でした10。

ホルモンの治療で、関節の痛みは少し減る閉経後の女性1万人あまり、1年後に症状があった人の割合

偽の薬エストロゲン
関節の痛み79%76%
関節の腫れ40%42%

痛みの差は3ポイントほどで、3年後まで続きました。腫れはわずかに多くなりました。

出典:Chlebowski RT, et al. Menopause 2013;20:600-8(Women's Health Initiative、子宮摘出後の女性)

筋肉については、ホルモンの治療を受けている人で筋力がおよそ20分の1高い、という研究のまとめがあります11。けれども2025年の日本のガイドラインでは、「筋肉の衰えの予防にHRTは有効か」が新しく検討され、筋肉の量や力を保つ根拠は乏しいとされています12。

HRTを使えるかどうかは、症状の強さ、年齢、閉経からの年数、乳がんや血栓の病気があるかどうかなどで決まります。一般に、60歳未満、閉経から10年未満で始めるほうが安全とされています1。関節の痛みだけを理由に始める治療ではありません。ほてりや眠れないなど、ほかの症状も重なってつらいときに、婦人科で相談してください。

筋肉と関節を守るのは、運動

  • 閉経したあとでも、筋肉は鍛えれば応えます。女性4,000人あまりの筋トレの試験をまとめた研究では、筋力の伸びは、閉経の前と後で変わりませんでした13。よく体を動かしている人ほど、閉経のどの時期でも筋肉の量が多いこともわかっています8。
  • 関節の痛みにも効きます。乳がんの治療でエストロゲンを強く抑える薬を飲んでいる女性は、半数近くが関節の痛みに悩みます14。そうした女性を、1年間の運動(週150分の有酸素運動と、週2回の筋トレ)と、ふだんどおりの生活に分けた試験では、いちばん強い痛みが運動で3分の1近く減り、ふだんどおりの人ではやや増えました15。更年期そのものの試験ではありませんが、エストロゲンが減ったときの関節の痛みに、運動がはたらくことを示しています。
  • ほてりへの効果は、まだはっきりしません。運動の試験をまとめた研究では、ほてりへの効果は確かめられませんでした16。ただ、スウェーデンの小さな試験では、週3回、15週間の筋トレで、強いほてりの回数がほぼ半分に減りました17。

始め方は50歳からの筋トレ、週2回からに、膝や腰が痛いときは膝・腰が痛いときの動き方にあります。

男性にも「更年期」はある。でも、形が違う

男性ホルモン(テストステロン)は、女性のエストロゲンのように急には減りません。米国の40〜70歳の男性を追った研究では、毎年少しずつ、ゆっくり下がっていました18。

それでも、ホルモンが大きく下がって症状が出る人がいます。これをLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)、いわゆる男性更年期障害と呼びます。日本では2022年に診療の手引きが改訂され、血液の男性ホルモンの値と症状を合わせて診断します19。欧州の男性3,000人あまりの研究では、ホルモンの低さといちばんはっきり結びついていたのは性の症状でした。疲れや気分の症状だけでは決められません20。

男性の更年期は、形が違う女性と男性の比べ方

女性男性
ホルモンエストロゲンが閉経の前後に大きく減るテストステロンが1年に1〜2%ずつゆっくり下がる
主な症状ほてり・汗・肩こり・関節の痛み・気分の落ち込み性欲や朝の勃起の低下・気分の落ち込み・疲れ・筋力の低下
見分け方年齢・月経の変化・症状から血液のホルモンの値と症状を合わせて
出典:日本女性医学学会 HRTガイドブック(2023)/Feldman HA, et al. J Clin Endocrinol Metab 2002/Wu FC, et al. N Engl J Med 2010/LOH症候群診療の手引き2022

国の調査では、「更年期障害かもしれない」と思っていても、受診していない人が、男女とも多くいました2。

「かもしれない」と思っても、受診していない50〜59歳、国の調査(2022年)

女性男性
更年期障害の可能性があると考えている38.3%14.3%
更年期障害と診断された9.1%1.7%
症状のある人のうち、受診していない78.9%86.5%

インターネット調査で、回答者の感じ方に基づく数字です。

出典:厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査(結果概要)」2022

男性ホルモンを補う治療は、65歳以上の男性の試験で、性の機能と気分は少しよくなりましたが、元気さや歩ける距離は変わりませんでした21。心臓の病気の危険が高い男性の試験では、心筋梗塞や脳卒中は増えませんでしたが、不整脈(心房細動)や肺の血栓は多くなりました22。

筋肉を守る土台は、男性も女性と同じです。週2回の筋トレから始めましょう。

似た症状の、別の病気に気をつけて

更年期の症状は「ほかの病気が原因ではないもの」とされています2。関節リウマチは女性に男性の4倍ほど多く、40〜60代での発症が多い病気です23。凍結肩(五十肩)も50代に多く、女性にやや多い病気です24。

くわしくは指の関節の痛み、五十肩は、いま「凍結肩」と呼ばれています、肩こり、脊柱管狭窄症と運動にあります。

似た症状の、別の病気こんなときは、それぞれの相談先へ

こんなとき考えられること相談先
手首や指の付け根が腫れる・朝のこわばりが続く関節リウマチ整形外科・リウマチ科
指の第一関節が痛む・こぶができるヘバーデン結節整形外科
肩が上がらない・夜も痛む凍結肩(五十肩)整形外科
首から腕、腰から脚へのしびれ背骨の神経の病気整形外科
出典:日本リウマチ学会「関節リウマチ」/Hand C, et al. J Shoulder Elbow Surg 2008/日本女性医学学会 HRTガイドブック(2023)/LOH症候群診療の手引き2022

SNSでよく見る「更年期の常識」を確かめる

更年期とホルモンの話題は、SNSや動画でもよく見かけます。主なものを、研究で確かめました。

「更年期の常識」を研究で確かめる○=研究で支持 △=一部だけ ×=研究と合わない・出所不明

よく見る話研究でわかったこと判定
ホルモンの治療は危険で使えない年齢や持病などの条件のもとで使われている×
エクオールのサプリで関節の痛みが治る偽の薬と比べた試験が見つからない×
出典:本記事の出典1〜25

大豆から腸の中でつくられる「エクオール」のサプリメントで、関節や指の痛みがよくなる、という広告もあります。指の関節の痛みで試した研究は、偽の薬と比べていない小さな研究で、サプリメントを販売する会社の支援を受けたものでした25。このサイトでは、サプリメントを販売していません。効くかどうかは、研究で確かめてお伝えします。サプリメントより先に、見直したいこともご覧ください。

こんなときは、受診や相談を

  • ほてり、寝汗、眠れない、気分の落ち込みと、体の痛みが重なって、暮らしに差し支える(女性):婦人科で相談を。日本女性医学学会のホームページで、近くの専門医を探せます1。
  • 意欲が出ない、疲れが取れない、性の悩みが続く(男性):泌尿器科か、男性更年期を診る外来へ。
  • 急に体重が減る、熱が続く、じっとしていても夜も痛む:早めに受診を。
  • 気分の落ち込みや眠れない日が続くときは、休んでいるのに、休まらないの相談先もご覧ください。

まとめ

  • 更年期には、ほてりだけでなく、肩こり・関節の痛み・筋肉の減少も起こりやすい。体重計では気づきにくい。
  • ホルモンの治療で、関節の痛みは少し減る。筋肉を保つ根拠は乏しい。始めるかどうかは婦人科で。
  • 筋肉と関節を守る主役は運動。閉経後でも、閉経前と同じだけ筋トレは効く。
  • 男性のホルモンはゆっくり下がる。つらい症状が続けば泌尿器科へ。
  • 関節の腫れや朝のこわばりが続くときは、リウマチなど別の病気を確かめる。