「年のせい」と言われがちですが、首下がりは症状の名前で、その裏にいろいろな原因があります1。なかには、治療でよくなる病気もあります。
首は背骨のいちばん上に乗っている
首は、胸の骨(胸椎)のいちばん上に乗っています。この土台が前に傾いているほど、前を見るために首は大きく反ります。土台の傾きと首のカーブは強く結びついていて、土台がもともと立っている人では、まっすぐな首が自然な形です2。首のカーブは、胸のカーブと逆向きに連動しています3。
年齢とともに、この土台は前に傾いていきます4。背中が丸くなると、前を見るために首がその分だけ反って補う、と考えられています。症状のない人でも、首のカーブは年齢とともに大きくなっていきます5。ただし、同じ人を長く追って確かめた研究は、まだありません。
肩こりは、ほぐすより鍛えるで、ストレートネックだけでは肩こりの原因とは言えないことを書きました。首の形は、首だけでは決まりません。
日本の50〜89歳のボランティア656人では、頭が首の付け根より4cm以上前に出ている人は、暮らしやすさの点数が低くなっていました6。ただ、背骨に変形のない人で、首の痛みと首の形が関係するかどうかは、はっきりしていません78。
首下がり症候群とは
首を起こす後ろの筋肉が弱くなり、頭が前に垂れて、あごが胸に近づく状態です。手で持ち上げれば元の位置に戻るのが特徴です9。日本神経学会の雑誌に載った論文は、自分で首を起こせても「長続きしない」と書いています。前が見にくくなり、歩く、息をする、飲み込むといった毎日の動作に困るようになります1。
日本の3施設で67人を調べた研究では、75〜79歳の女性に最も多く見られました。首や背中の痛みはほとんどの人にありましたが、強さは10段階で平均3ほどでした10。痛みより、前が見えないことのほうがつらい症状です。

首下がりの人の多くは、胸の上の丸みや、背中や腰の傾きも一緒に抱えています1112。背骨全体の問題として見る必要があります。背中の丸みは背中が丸くなる、背が縮むに、腰の傾きは立って10分で腰がつらいにまとめています。
原因はひとつではない
報告された129人をまとめた研究では、首の後ろの筋肉だけが弱る病気(首伸筋ミオパチー)がもっとも多く、パーキンソン病、重症筋無力症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と続きました。この4つで、全体の3分の2を超えていました13。
- パーキンソン病:日本のパーキンソン病の患者252人のうち、およそ17人に1人に首下がりがありました14。
- 重症筋無力症:60歳を過ぎてから発症した人では、およそ4人に1人に首下がりが見られました。治療でよくなることが多い症状です15。
- ALS:首下がりで始まることがあり、首下がりのあった人は全員、飲み込みにくさを伴っていました16。
- 筋肉の病気(ミオパチー):首下がりで始まった筋肉の病気では、飲み込みの検査で半数に異常があり、呼吸や心臓に及ぶこともありました17。
- 薬:パーキンソン病の薬や、しびれ・痛みの薬(プレガバリン)などで報告があります18。パーキンソン病の76歳の女性が、認知症の薬(ドネペジル)を飲み始めて数日で首が下がり、やめてから2か月でおさまった例もあります19。
- 甲状腺・副甲状腺の病気:治療で治る原因です2021。
- 原因が見つからないもの:整形外科を受診する人では、はっきりした原因が見つからない人が多くいます10。全身の筋肉の衰え(サルコペニア)とは関係がなかった、という日本の研究もあります22。
こんなサインがあれば受診を
首下がりで、気づきたいサインこんなときは受診を
| こんなとき(考えられること) | 相談先 |
|---|---|
| 立つ・座ると頭が前に垂れ、前が見にくい。起こしても長く続かない(首下がり症候群) | 整形外科(脊椎)か脳神経内科 |
| 寝ると首がまっすぐに戻る(首を起こす筋肉の弱り) | 整形外科(脊椎)か脳神経内科 |
| 飲み込みにくい、むせる、息苦しい(神経や筋肉の病気) | 脳神経内科を早めに |
| 手足の力が落ちた、まぶたが下がる、物が二重に見える(重症筋無力症、ALS など) | 脳神経内科を早めに |
| 手のふるえ、小刻みな歩き方(パーキンソン病) | 脳神経内科 |
| 薬を始めた・増やした直後から(薬の副作用) | 処方した医師へ。自分の判断でやめない |
1つ当てはまれば病気、というわけではありません。迷ったら相談してください。
首下がりは、整形外科(脊椎)でも脳神経内科でも診ています。どちらを先に受診してもかまいません。原因に神経や筋肉の病気が多いため、整形外科を受診した場合も、脳神経内科での検査を組み合わせることがあります913。
- 手足の力が落ちた、まぶたが下がる、物が二重に見える、飲み込みにくい、むせる、息苦しい:脳神経内科を早めに受診してください151617。
- パーキンソン病や認知症の薬を始めた、増やした直後に首が下がってきた:自分の判断で薬をやめず、処方した医師に相談してください1819。
検査では、MRIで首の後ろの筋肉の変化を確かめたり23、筋電図や血液検査で神経や筋肉の病気を調べたりします9。
治療はまず原因から
原因となる病気があれば、その治療が先です。重症筋無力症や副甲状腺の病気は、治療で首下がりがよくなることがあります1521。首伸筋ミオパチーでも、発症から早く治療を始めた人ほどよく回復していました21。
自然によくなる人もいます。日本の3施設の67人では、5人に1人ほどが手術をせずに回復しました。回復までは平均11か月ほどでした10。首のカラーと運動を2〜3か月続けた76人では、うまくいったのは5人に1人ほどで、発症して間もない人、寝ると首がまっすぐに戻る人ほど、よくなりやすくなっていました24。急に始まり、けがのきっかけがない人も、手術をしない治療での回復がよかったと報告されています25。

リハビリは、首だけを鍛えるものではありません。日本で考案された2週間の入院による集中リハビリ(SHAiR)は、首の後ろの筋肉の運動に加えて、首と胸の動きを広げる運動、お尻上げ、骨盤の運動、歩く練習を組み合わせています26。原因が見つからない48人では、4人に3人ほどが前をまっすぐ見られるようになり、その状態が続いていました27。ただし、神経や筋肉の病気がある人などを除いた成績です。
前を見る力は、首の筋力より、歩く速さと結びついていました28。歩く力については歩くと、だんだん前かがみになるにまとめています。
手術は、こうした治療でよくならないときに考えます。手術を受けた40人の報告では、全員が前を見られるようになりました29。手術の結果をまとめた研究では、首だけを固定した7人では5人がうまくいかず、首から胸まで固定した46人では、うまくいかなかったのは8人に1人ほどでした。首の前側から手術した人の4分の3に、飲み込みにくさなどの合併症がありました30。難しい手術で、合併症も多くあります。
よく聞く話を確かめる
首下がりの「よく聞く話」を確かめる研究でわかっていること
| よく聞く話 | わかっていること | 判定 |
|---|---|---|
| 首が下がるのは年のせい | 75〜79歳の女性に多いのは事実。ただ、治療できる病気が隠れていることがある | △ |
| 手術しないと治らない | 約2割は手術をせずに回復した | × |
| 首を鍛えれば必ず治る | 集中リハビリで7割がよくなった報告はあるが、首だけでなく全身の運動。病気が原因なら、その治療が先 | × |
| スマホの見過ぎで首下がりになる | 関係を調べた研究が見つからない | 根拠なし |
| 枕で治る | 調べた研究が見つからない | 根拠なし |
| ストレートネックは首下がりの前段階 | 進むことを示した研究はない。まっすぐな首が自然な形の人もいる | 根拠なし |
まとめ
- 首は胸の骨の上に乗っていて、背中の傾きに合わせて形を変える。
- 首下がりは、さまざまな原因で起こる症状。75〜79歳の女性に多い。
- 原因には、パーキンソン病、重症筋無力症、筋肉の病気、薬なども。整形外科か脳神経内科へ。
- 飲み込みにくい、手足の力が落ちた、物が二重に見えるときは、早めに脳神経内科へ。
- 治療はまず原因から。リハビリは全身で。手術は最後の手段。