これは気のせいではありません。歩いているときの背骨は、立って撮るレントゲンより前に傾くことが、測定で確かめられています。立っているときの傾きと腰のつらさは立って10分で腰がつらいにまとめました。ここでは、歩くことに絞ります。

立っているときより歩くと傾く

背骨に変形のある日本の26人に、ベルトの上を歩く機械で歩いてもらった研究があります。体の前への傾きは、立っているときの16.0°から、歩き始めで21.8°、歩き終わりには26.9°まで増えていました。骨盤は、立っているときは後ろに倒れて体を支えていましたが、歩き出すとすぐに前へ倒れていました1。

手術前の93人では、立った姿勢で3.5°だった体の傾きが、歩くと11.1°になりました2。10分歩いたあとにレントゲンを撮った研究では、立ったときには骨盤などで支えて釣り合いを保っていた人でも、10人に8人以上で体が前に出ていました3。

立って撮るレントゲン1枚では、歩いているときの姿勢はわかりにくいのです13。

前かがみで歩くと遅く小股になる

前への傾きが大きい人ほど、歩くのが遅く、歩幅が小さく、膝や股関節が伸びきらない歩き方になります45。前後の傾きが大きいタイプの背骨の変形がある人の歩く速さは、毎秒0.8mで、健康な人の1.2mより遅くなっていました。一方、左右の曲がり(側弯)だけの人の歩き方は、健康な人とほぼ同じでした5。

骨盤を後ろに倒し膝を曲げて体を支えるやり方は、体幹や脚の筋肉をたくさん使う、燃費の悪い支え方です6。

歩く速さは、体全体の元気さの目安でもあります。高齢者3万4千人あまりをまとめた解析では、歩く速さが毎秒0.1m速いごとに、亡くなる危険が低くなっていました7。

日本の地域の研究では、体が前に傾いている人ほどロコモ(移動する力の衰え)に当てはまりやすく89、転んだことのある人が多いことも報告されています10。骨⁠粗⁠鬆⁠症の女性333人を約5年追った研究では、体の前への傾きが大きい人ほど、転んで背骨以外の骨を折ることが多くなっていました11。ただ、多くはある時点の様子を調べた研究で、「傾きが原因で転ぶ」とまでは言えません。

曲がる理由は一つではない

歩くと曲がってくる理由には、いくつかの入り口があります。

背中とお尻の筋肉。 腰の背筋に脂肪が混じっている人ほど、歩いているうちに背中の丸みが増えていました12。歩いているときの前かがみの増え方に、いちばん関係していたのはお尻の筋肉(股関節を伸ばす筋肉)の力でした13。日本で昔から「腰曲がり」と呼ばれてきた状態でも、背筋が弱く、筋肉がやせて脂肪が混じっていることが報告されています14。

脊柱管狭窄症。 腰を反らすと神経の通り道が狭くなり、前かがみで広がります15。スーパーのカートにもたれると楽に歩ける、というのはこの病気でよく見られる特徴です。ほかの症状と合わせると、狭窄症による歩きにくさを強く示します16。この場合の前かがみは、神経を楽にするための姿勢です。

膝。 膝が伸びきらない人ほど、腰の反りが小さくなっていました。日本の研究者が「膝と背骨の症候群(knee-spine syndrome)」と名づけた関係です17。健康な人に装具で膝を30°曲げた状態をつくると、歩くときの体の前傾が増えました18。人工膝関節の手術のあとに姿勢がよくなった人もいますが、反対の膝が悪いままだと、2年で元に戻っていました19。

神経の病気。 数か月のうちに急に曲がってきた、手のふるえや小刻みな歩き方がある、というときは、パーキンソン病などによる腰曲がりのこともあります20。

歩くと曲がる、4つの入り口理由によって、対処が変わる

入り口と、こんなとき相談先・読むページ
背中とお尻の筋肉:歩くうちに、だんだん曲がってくる運動(背中の運動、筋トレ)
脊柱管狭窄症:歩くと脚がしびれる・痛む。前かがみやカートで楽になり、座ると治まる整形外科(脊椎)
膝・股関節:膝が伸びきらない。膝や股関節が痛む整形外科
神経の病気:数か月で急に曲がった。手のふるえ、小刻みな歩き方脳神経内科

いくつかが重なっていることもあります。

出典:Miura K, et al. Sci Rep 2021;11:18088/Sato K, et al. Asian Spine J 2022;16:643-50/Madsen R, et al. Spine 2008;33:61-7/Nadeau M, et al. Can J Surg 2013;56:372-7/Murata Y, et al. J Bone Joint Surg Br 2003;85:95-9/Sajin V, et al. J Neurol 2025;272:638

杖と押し車は歩き続けるための道具

「杖を使うと弱る」と心配する人がいます。フィンランドの75〜90歳の848人を2年追った研究では、ゆっくり歩く、道具を使う、といった工夫をして歩き続けた人は、外出できる範囲の狭まり方がゆるやかでした。歩く回数を減らしたり、歩くのをやめたりした人は、外出の範囲がもっとも狭く、狭まり続けました21。弱るのは、歩かなくなることのほうです。

道具の種類で、姿勢は変わります。背骨の曲がりがある53人で比べた研究では、高めの握りの杖(ウォーキングポール)を2本使うと、車輪つきの歩行器より上体が起き、股関節や膝の曲がりも少なくなりました。一方、歩く速さは歩行器のほうが少し速くなりました22。

2本のウォーキングポールを使い、背筋を起こして歩く男性
2本のウォーキングポールを使い、背筋を起こして歩く男性

押し車やカートは、前にもたれて体を支えられます。狭窄症の人には、前かがみで神経が楽になること自体が助けになります1516。どちらが合うかは、曲がる理由によって違います。主治医やリハビリの専門職に相談してください。

ショッピングカートにもたれて、楽に歩く女性
ショッピングカートにもたれて、楽に歩く女性

杖の高さは、腕を下ろしたときの手首のしわの高さが目安です。杖や歩行器を使っている人の多くは、使い方の指導を受けておらず、高さが合っていないと報告されています23。

体操と手術でどこまで変わるか

体操。 日本の13施設で、背骨の変形がある50〜80歳の人が「腰曲がり体操」に取り組んだ研究があります。理学療法士の指導を週1回受け、家でも週3〜4回続けました。6か月で、ほぼ5人に2人に暮らしの不自由さのはっきりした改善があり、12か月では体の傾きにも違いが見られました2425。ただし、体操をしない人と比べた研究ではありません。体操の中身は、体の柔らかさを保つ運動、体幹と背中の筋トレ、動き方の練習などです25。

家でできる背中の運動は背中が丸くなる、背が縮むに、狭窄症の運動は脊柱管狭窄症と運動にまとめています。

手術。 背骨を矯正して固定する手術は、大きな手術です。北米で、腰に曲がりがある40〜80歳を調べた研究では、手術を受けた人のほうが、受けなかった人より暮らしの不自由さの改善が大きく、その差は8年後も続いていました2627。ただし、くじで治療を分けた部分では、手術に移る人が多く出たため、実際に受けた治療ごとに比べた結果です。

一方で、手術から2年以内に約3人に2人が何らかの合併症を経験し、10人に2人は追加の手術が必要になりました28。8年のあいだに、金属や骨の問題で再手術になる見込みは5人に2人ほどでした29。日本の全国登録3,193人でも、手術後2週間以内に4人に1人あまりが合併症を経験していました30。

背骨がまっすぐになっても、歩き方がすぐ健康な人並みに戻るとは限りません。手術のあと、歩く速さや歩幅は良くなりましたが、健康な人には届きませんでした3132。

背骨の矯正手術、得るものと払うもの研究でわかっていること

わかっていること
暮らしの不自由さ手術を受けた人のほうが改善が大きく、8年後も差が続いた(北米、受けた治療ごとの比較)
2年以内の合併症約3人に2人。10人に2人は追加の手術
8年での再手術金属や骨の問題で、約4割の見込み
日本の全国登録手術後2週間以内の合併症 28.5%
歩き方速さと歩幅は良くなるが、健康な人には届かないことが多い

手術を考えるときは、期待できる改善と、合併症・再手術の見込みを主治医と一緒に確かめる。

出典:Kelly MP, et al. J Bone Joint Surg Am 2019;101:338-52/Smith JS, et al. JAMA Surg 2025;160:634-44/Lafage R, et al. Spine 2024;49:829-39/Smith JS, et al. J Neurosurg Spine 2026/Katayanagi J, et al. Spine 2026;51:E519-29/Yagi M, et al. Spine J 2017;17:409-17/Huysmans SMD, et al. Gait Posture 2026;128:110178

受診の目安と医師に伝えること

  • 10分ほど歩くと、だんだん前かがみになる。家族に言われる。
  • 歩くと脚がしびれる、痛む。前かがみになる、座ると楽になる。
  • 膝が伸びきらない。
  • 歩くのが遅くなった。
  • 数か月で急に曲がってきた。手のふるえや小刻みな歩き方がある。

受診したら、立っているときだけでなく、歩いているとき、歩いたあとの姿勢の変わり方も伝えてください。手術をすすめられたときは、期待できる改善、合併症と再手術の見込み、手術後のリハビリ、歩く速さや距離がどこまで戻りそうかを聞いておきましょう。

まとめ

  • 歩いているときの背骨は、立って撮るレントゲンより前に傾く。10分歩くと崩れる人も多い。
  • 前かがみの歩き方は、遅く小股で、筋肉をたくさん使う。
  • 曲がる理由は、筋肉、狭窄症、膝、神経の病気など。理由で対処が変わる。
  • 杖や押し車は、歩き続けるための道具。弱るのは歩かなくなること。
  • 手術は改善が大きいが、合併症と再手術も多い。歩き方は健康な人並みには戻りにくい。