膝の軟骨は、自然にはほとんど治らない
膝の関節の軟骨には、血管がありません。そのため、いったん傷むと、自分で治る力がとても弱いのです12。
日本の診療のガイドラインは、変形性膝関節症について「病気の進み方を遅らせたり、病気そのものを治したりできる治療は、まだない」と書いています。いまある治療は、どれも痛みなどの症状を和らげるためのものです1。
変形性膝関節症そのものについては、変形性膝関節症とはにまとめています。
膝の治療で、確かめられていること軟骨が戻ると示された治療は、まだない
| 治療 | 何をするか | 確かめられていること | まだ・ないこと |
|---|---|---|---|
| 運動・減量 | 自分で続ける | 痛み・動きやすさが良くなる(強く勧められている) | 軟骨が戻る証拠はない |
| PRP注射 (自由診療) | 自分の血液の成分を膝に | 大きな試験で、食塩水の注射と差がなかった | 効き目・安全性とも「判定できない」(日本の指針) |
| 幹細胞注射 (自由診療) | 自分の脂肪などの細胞を膝に | 痛みが少し良くなる研究も。多くはプラセボ効果と推定 | 軟骨・膝の形の改善は一貫して示されていない |
| 培養軟骨 (保険・2026年〜) | 自分の軟骨を育てて、手術で移植 | 限られた人で、1年の症状の改善(27人) | 長い目での効き目 |
| iPS細胞の軟骨 (研究) | 他人のiPS細胞から作った軟骨を移植 | 4人で1年、腫瘍はできなかった | 治療としての効き目。変形性膝関節症への使用 |
ヒアルロン酸・ステロイドの注射は「膝の注射と手術」のページへ。
PRP(自分の血液の成分)の注射
自分の血液から取り出した成分(PRP)を、膝の関節に注射する治療です。日本では保険が効かない自由診療で行われています1。
- 大きな試験で、PRPの注射と食塩水の注射を比べました。1年後の痛みも、軟骨の量も、差がありませんでした3。
- 日本のガイドラインは、PRPの効き目も安全性も「判定できない」としています1。
- 米国のリウマチ学会のガイドラインは、PRPを「しないことを強く勧める」としています4。
この試験では、食塩水の注射でも、痛みがかなり和らいでいました3。「注射を受けた」こと自体で、痛みは軽くなることがあるのです。
幹細胞の注射
自分の脂肪や骨髄などから取り出した細胞を、膝に注射する治療です。これも自由診療です。
- 3種類の細胞の注射を、ステロイドの注射と比べた試験では、どの細胞の注射も、ステロイド注射より良くはありませんでした。MRIで見た膝の状態も、どの群も変わりませんでした5。
- 試験をまとめた研究では、痛みが少し良くなるという結果もあります。けれども、軟骨など膝の形が良くなるという、一貫した結果はありませんでした。注射した場所の痛みや、膝の腫れは増えていました6。
- その痛みの改善の多くは、注射を受けたこと自体の効果(プラセボ効果)と推定されています7。
- 米国のガイドラインは、幹細胞の注射も「しないことを強く勧める」としています4。
研究を進めることは大切です。ただ、自由診療の注射で軟骨が戻ると示した研究は、まだありません。
「国に届け出た治療」は、「国が認めた治療」ではない
PRPや幹細胞の注射は、「再生医療等安全性確保法」という法律のもとで行われます。膝の関節に入れるPRPは、リスクが中くらいの「第二種」に当たります81。
医療機関は、委員会の審査を受けた治療の計画を、国に届け出てから行います。けれども、それは国が効き目を認めたという意味ではありません。厚生労働省は、次のように書いています9。
> 厚生労働大臣は個別の再生医療等提供計画の有効性・安全性について承認・認可等を行い、お墨付きを与えているわけではありません。
「厚生労働省に承認された治療」「国の厳しい審査をクリアした」という広告は、誇大広告の例として国が挙げています。「自分の細胞だから副作用はない」という言い方も同じです9。
もう一つ、知っておきたいことがあります。保険の効かない再生医療で具合が悪くなったとき、その手当てに保険が使えないことがあると、国が医療機関に注意を促しています10。受ける前に、「具合が悪くなったら、どこで、どう診てもらえるのか」を必ず聞きましょう。
注射のあとに膝が腫れて熱い、熱が出たときは、すぐに受診してください。
保険が効くようになった「培養軟骨」
2026年1月から、自分の軟骨を育てて膝に移植する自家培養軟骨が、変形性膝関節症にも保険で使えるようになりました1112。これは注射ではなく、手術です。
- 運動療法などを続けても、症状が良くならない人
- 軟骨の欠けた部分が一定の大きさ(2 cm²以上)で、その周りに軟骨が残っている人
- O脚やX脚が強すぎない人
レントゲンで膝全体がすり減っている人は、対象になりません。
また、国が認めた効き目は「症状の改善」です。「軟骨の再生」ではありません11。国の審査に使われた試験は、27人・1年の比較でした。国の審査の報告書は、効き目が大きめに出ている可能性にも触れています。そのため、使ったすべての患者さんの経過を調べることが、承認の条件になっています11。
手術は2回に分けて行い、体重をすべてかけて歩けるまで、1か月以上のリハビリがかかります11。仕事や家族の予定も含めて、主治医とよく相談しましょう。
iPS細胞の軟骨は、まだ研究の段階
京都大学では、他人のiPS細胞から作った軟骨を、4人の膝に移植する臨床研究が行われました。目的は安全性を確かめることで、1年間の観察で腫瘍はできませんでした13。
ただし対象は、けがなどによる軟骨の傷で、変形性膝関節症ではありません。治療として受けられる段階ではありません132。
細胞シートで軟骨を治す研究(東海大学)
東海大学の整形外科では、佐藤正人教授らが「軟骨細胞シート」の研究を続けています。軟骨の細胞を培養して薄いシートにし、傷んだ軟骨の部分に貼る方法です。
- 患者さん自身の軟骨から作ったシートを、O脚を直す手術(高位脛骨骨切り術)と一緒に8人に移植した研究では、1年後に関節鏡で組織を取って調べ、本来の軟骨に近い組織(硝子軟骨)ができていることを確かめました14。この治療は、国の「先進医療」として審査を通っています15。
- 他人の細胞(多指症の手術で取り除いた軟骨)から作ったシートでも、10人で同じような結果が報告されています16。
- 2025年からは、同じ品質のシートをたくさん作れる「次世代」のシートの臨床研究が始まりました。2026年2月の時点で4人に移植され、重い副作用は出ていません17。
注射の治療との大きな違いは、移植して1年後に実際に組織を取り、軟骨ができているかを確かめていることです。
ただし、どの研究も人数が少なく、シートを貼らない人との比較はありません。骨切りの手術も一緒に行っているため、シートだけの効果は分けられません。大学自身も「一般診療として広く提供できる段階ではありません」としています17。製品としての承認を目指した取り組みが続いています16。
利益相反の開示:この記事を監修した医師(加藤裕幸)は、東海大学医学部の教員です。この研究には関わっていません。
広告を見たら、確かめる5つ
再生医療の広告を見たら、確かめる5つ上から順に
| 確かめること | なぜ |
|---|---|
| 保険? 自由診療? | 自由診療なら、費用は全額が自己負担 |
| 「国が認めた」「厚労省が承認」と書いていない? | 届け出は、国の承認ではない |
| 計画の番号と「第何種」が書いてある? | 書いてよいのは、届け出たことと計画の番号 |
| 費用の総額・回数・主なリスクが、同じページにある? | 自由診療を詳しく広告するなら、書くことが決められている |
| 体験談・治療前後の写真・「副作用はない」で押していない? | どれも、広告で認められていない書き方 |
困ったら:違法な治療や健康被害の疑いは厚生労働省「再生医療等情報提供・通報窓口」、広告の表示は医療機関ネットパトロール、請求や契約のトラブルは消費者ホットライン188。
- 保険か、自由診療か。 自由診療なら、費用は全額が自己負担です。
- 「国が認めた」「厚生労働省が承認」と書いていないか。 届け出は、承認ではありません9。
- 計画の番号と「第何種」が書いてあるか。 書いてよいのは、届け出たことと計画の番号です9。
- 費用の総額・回数・主なリスクが、同じページに書いてあるか。 自由診療を詳しく広告するときは、費用とリスクも書くことが決められています9。
- 体験談、治療前後の写真、「副作用はない」で押していないか。 どれも、国が広告で認めていない書き方です9。
- 法律に反した治療や、健康被害が疑われるとき:厚生労働省の「再生医療等情報提供・通報窓口」
- 広告の書き方がおかしいとき:医療機関ネットパトロール
- 高額な請求や契約のトラブル:消費者ホットライン(188)
軟骨のサプリメントの広告については、サプリメントの広告を読むをお読みください。
痛みと動きやすさは、良くすることができる
軟骨を戻す確かな方法は、まだありません。けれども、痛みと動きやすさは、良くすることができます。その土台になるのが、運動です。日本のガイドラインも、運動療法を強く勧めています1。
- 動き方と痛みの目安:膝・腰が痛いときの動き方
- ヒアルロン酸やステロイドの注射、手術を考える目安:膝の注射と手術
まとめ
- 膝の軟骨は、傷むと自然にはほとんど治らない。
- PRPや幹細胞の注射で、軟骨が戻ると示した研究は、まだない。
- 国への「届け出」は、国の「お墨付き」ではない。
- 保険の培養軟骨は、限られた人のための手術。認められた効き目は「症状の改善」。
- iPS細胞の軟骨は、まだ研究の段階。
- 細胞シートは、1年後の組織で軟骨ができたことを確かめた日本発の研究。ただし、まだ少人数の臨床研究の段階。
- 痛みと動きやすさは、運動で良くすることができる。