日本のガイドラインは、夜に排尿のために1回以上起きなければならないという訴えを「夜間頻尿」と定めています1。定義のうえでは私もすでに夜間頻尿の仲間です。ただ40歳以上の日本人4,570人に尋ねた調査では、夜に1回以上起きる人は10人に7人いました2。生活の質がはっきり下がりはじめるのは夜2回から、という調査もあります3。1回の私は、定義には入るけれど、その線にはまだ届いていない側にいます。
夜の回数と、困りぐあい
夜の回数と、困りぐあい回数ごとに、いちばん多かった答え
| 夜に起きる回数 | 困りぐあい(フィンランドの住民調査) | 40歳以上の日本人では |
|---|---|---|
| 1回 | 困っていない | 1回以上の人は 69%(10人に7人) |
| 2回 | 少し困る。生活の質が下がりはじめる | — |
| 3回以上 | 中くらい〜かなり困る | 14%(7人に1人) |
日本の調査は40歳以上 4,570人(平均61歳)。生活に影響すると答えた人のうち、受診したのは5人に1人ほどでした。
回数そのものより、それで眠りが削られているかどうかを見てください。ガイドラインも、1回でも眠りの質や昼のだるさに響きはじめることがあると書いています1。回数が増えて眠りが削られているなら、一度相談する価値があります。
眠りそのものの変化(年齢とともに浅くなる、早く目が覚める)は、夜中に目が覚める、朝早く目が覚めるにまとめています。
原因は、大きく3つ
夜中のトイレの原因は「尿が多すぎる」「膀胱にためられない」「眠りが浅い」の3つで、重なることもよくあります1。
夜中のトイレ、3つの原因重なっていることもよくあります
| 原因 | 目印 | よくある背景 |
|---|---|---|
| 尿が多すぎる(多尿・夜間多尿) | 1回の量はふつうなのに回数が多い。夕方に足がむくむ | 飲み物が多い、塩分が多い、糖尿病、心臓や腎臓の病気、薬 |
| 膀胱にためられない | 1回の量が少ない。急にトイレに行きたくなる、出にくい | 過活動膀胱、前立腺肥大症(男性)、残尿 |
| 眠りが浅い | 目が覚めたついでにトイレに行く | 年齢による眠りの変化、不眠、睡眠時無呼吸 |
男性は前立腺のせいだと思いがちです。ところが前立腺肥大症のガイドラインは、夜間頻尿は前立腺や膀胱よりも夜の尿の多さや眠りの問題から起きることがあるので特に注意がいる、と書いています4。大きないびきがある人は睡眠時無呼吸も疑ってください。無呼吸のある男性では夜間頻尿が多く5、治療(CPAP)のあとで夜のトイレが減ったという報告をまとめた研究もあります6。いびきについてはいびきと昼の眠気にあります。
まず3日、排尿日誌をつける
原因を見分けるいちばんの道具は排尿日誌で、ガイドラインでも最も強く勧められています1。トイレのたびに時刻と量を書き、寝た時刻と起きた時刻も書きます。台所の計量カップが、しばらくトイレ係に転属です。

3日間の排尿日誌トイレのたびに、時刻と量を
| 書くこと | 読み方 |
|---|---|
| 寝た時刻・起きた時刻 | 夜の尿は、寝てから朝起きて最初の1回までを数えます |
| トイレの時刻と量(計量カップで) | 1日の合計が 体重×40 mL を超えれば多尿(60 kgなら 2,400 mL) |
| 夜の尿の合計 | 1日の3分の1を超えれば夜間多尿(65歳を超える人) |
| 飲んだもの・もれた時刻(できれば) | 飲む量と尿の量のつり合いがわかります |
尿の量で見るのは、1日の合計が多すぎないか、夜に偏っていないかです1。受診のときにこの日誌を持っていくと、話が一気に早くなります。
夕方からの過ごし方
夜の尿が多いタイプには、薬の前に生活を変えることが勧められています。ガイドラインでいちばん強く勧められているのは飲み物の調整で、塩分を減らすことと夕方の運動がそれに続きます7。
夕方からの過ごし方夜の尿が多いタイプへの生活の工夫
| やること | ガイドラインの推奨 |
|---|---|
| 1日の飲み物を、尿が 体重×20〜25 mL になるくらいに(60 kgなら 1,200〜1,500 mL) | 強い(A) |
| 塩分を控える | B |
| 夕方に散歩、ダンベル、スクワット | B |
| 寝る前3〜4時間はアルコールとカフェインを避ける | 夜間頻尿改善10カ条 |
| 夕方に足を上げて休む、弾性ストッキング | 効果の報告はあるが、試験はない |
飲み物は、夕方以降だけでなく1日の総量で考えます7。
夕方の散歩やスクワットが入っているのは、ふくらはぎや太ももの筋肉がポンプになって足にたまった水分を血管に戻すからです7。寝る前に戻しておけば、横になってから尿として出てくる量が減ります。筋トレのやり方は50歳からの筋トレ、週2回からにあります。
国内の3つの病院で、夜間頻尿の56人に「水分を控えめに」「寝床に長くいすぎない」「昼に運動する」「寝床を温かく」の4つを4週間続けてもらった報告があります。夜のトイレは平均3.6回から2.7回に減り、2人に1人ほどが1回以上減らせました8。比べる群のない小さな研究ですが、薬の前に試す価値はあると私は考えています。寝床に長くいすぎない理由は、夜中に目が覚めるに書いています。
夜のトイレと転倒
夜間頻尿のある人は転ぶ危険が約1.2倍になる、とまとめた研究があります9。70歳以上の日本人784人を5年追った研究では、夜に2回以上起きる人の骨折は約2倍でした10。眠い頭で暗い廊下を歩くのですから、無理もありません。

寝室からトイレまでの足もとに明かりをつけ、つまずく物を片づけておくことは今夜からできます。睡眠薬を飲んでいる人にとっては、夜のトイレがいちばん転びやすい時間です。睡眠薬と、夜の転倒・骨折も読んでください。転ばない体づくりは転ばない体は、脚とお尻からにあります。
尿もれと骨盤底筋
咳やくしゃみ、重い物を持ったときにもれるのが腹圧性尿失禁です。急にトイレに行きたくなって間に合わないのが切迫性尿失禁です。どちらにも、骨盤の底で膀胱などを支える筋肉(骨盤底筋)の訓練が効きます。女性の尿失禁では、日本のガイドラインがこれを治療の第一選択にしています11。
骨盤底筋の訓練で、尿もれはどう変わるかランダム化試験のまとめから
| だれが | 結果 | 確かさ |
|---|---|---|
| 腹圧性尿失禁の女性 | 「治った」56%(訓練なし 6%) | 高い |
| 尿失禁の女性(型を問わず) | 「治った」35%(訓練なし 6%) | 中くらい |
| 前立腺の全摘手術のあとの男性 | 訓練なしと、はっきりした差はなかった | 中くらい |
効き目の大きさは、女性の試験をまとめた研究ではっきりしています12。続け方について英国の指針は、8回以上締める練習を1日3回、少なくとも3か月続けることを勧め、専門職の指導のもとで始めるよう書いています13。効けばそのまま続けます13。
男性の前立腺の手術のあとについては、試験のまとめでも効果がはっきりしていません14。手術を受ける人は、訓練をするかどうかを主治医と相談してください。
「夜のトイレ」の常識を確かめる
「夜のトイレ」の常識を確かめる○=おおむね正しい △=条件つき ×=支持されない
| よく聞く話 | 研究とガイドラインでは | 判定 |
|---|---|---|
| 寝る前の水で血液さらさら、脳梗塞の予防になる | 水をたくさん飲むことが脳梗塞や心臓の病気を防ぐという証拠はない | × |
| 水は減らせば減らすほどよい | 尿が 体重×20 mL を下回ると脱水の危険 | × |
| 夜1回のトイレは病気 | 定義では夜間頻尿。ただ40歳以上の10人に7人にあり、1回で困る人は少ない | △ |
| 男性の夜のトイレは前立腺のせい | 夜の尿の多さや眠りの問題から起きることも多い | △ |
| 年のせいだから、どうしようもない | 生活の工夫で回数が減ることがある | × |
脳梗塞の予防にと続けてきた「寝る前のコップ1杯」は、むしろ夜中のトイレへの招待状です7。とはいえ1日の総量まで大きく削るのは危険なので、減らすなら夕方からの分にします7。
こんなときは受診を
こんなときは、受診を生活の工夫だけで様子を見ないほうがよいとき
| こんなとき | どうする |
|---|---|
| 尿が赤い、茶色い(目で見てわかる血尿) | 早めに泌尿器科へ |
| 尿をするときの痛み、膀胱や下腹部の痛み、熱がある | 早めに受診 |
| 尿が出にくい、出しきれない、下腹部が張る | 泌尿器科へ(尿がたまっていることがある) |
| のどが渇いて水をたくさん飲む、急にやせた | 血糖を調べる |
| 足のむくみ、息切れ、横になると苦しい | 心臓の検査を相談 |
| 大きないびき、息が止まると言われる | 睡眠時無呼吸の検査を相談 |
| 生活を工夫しても回数が減らない、ひどくなる | かかりつけ医か泌尿器科へ。排尿日誌を持って |
まとめ
- 夜に1回以上トイレに起きる人は、40歳以上で10人に7人。回数より、眠りが削られているかを見る。
- 原因は尿が多い・膀胱にためられない・眠りが浅いの3つ。まず3日の排尿日誌。
- 飲み物は1日の総量で調整し、塩分を控える。夕方に歩くかスクワット。
- 夜のトイレは転びやすい。足もとの明かりから。
- 尿もれには骨盤底筋の訓練を、3か月続ける。