眠りそのものの整え方は、50歳からの睡眠にまとめています。
睡眠薬は効く。ただ、効く分は思われているより小さい
60歳以上の人の試験をまとめると、睡眠薬は眠りを確かに良くしていました。けれど、その差は小さく、副作用の差のほうが大きいくらいでした1。
60歳以上で、睡眠薬が効く分と、副作用偽薬(見た目が同じにせの錠剤)と比べた差
| 睡眠薬を飲んだ人 | |
|---|---|
| 眠っている時間 | 約25分長くなる |
| 夜中に目が覚める回数 | 1晩あたり約0.6回減る |
| 眠りの質がよくなる人 | 13人に1人 |
| 何らかの副作用が出る人 | 6人に1人 |
| 物忘れ・混乱などの副作用 | 約5倍 |
| 日中のだるさ | 約4倍 |
5晩以上続けた試験24件(2,417人)のまとめ(2005年)。オレキシン受容体拮抗薬など新しい種類は含みません。
国内の高齢者向けの指針も、効果の大きさは比較的小さく、高齢になるほど効く分と副作用の釣り合いが悪くなる、としています23。転びやすさや物忘れが気になる人ほど、医師とよく相談して使いたい薬です。
なぜ、転びやすくなるのか
睡眠薬の多くは、頭のはたらきを静めて眠りを促します。その作用が、夜中や翌朝まで残ることがあります。夜中に起きたときに測ると、ふらつきが大きくなる睡眠薬もありました4。種類によっては、体の力を抜く(筋肉をゆるめる)はたらきもあります2。年齢を重ねると、薬を分解して外に出す力が弱まり、薬が体に残りやすくなります3。
そこに、夜のトイレが重なります。夜中に何度もトイレに起きる人は、そうでない人より、転ぶ人がやや多くなっていました5。薬で足元がふらつきやすい時間に、暗い中を歩く。夜の転倒は、この重なりで起こりやすくなります。
転んだときに折れやすいのは、脚の付け根
高齢の人が転ぶと、脚の付け根の骨(大腿骨の付け根)を折ることがあります。この骨折では、ほとんどの場合、立つことも歩くこともできなくなり、寝たきりのきっかけにもなります6。睡眠薬を飲んでいる人では、この骨折を起こす人が多くなっていました78。
骨を強くする運動は、骨粗鬆症があっても、筋トレはできるにあります。
種類で違う。でも「新しいから安心」とはまだ言えない
睡眠薬には、はたらき方の違ういくつかの種類があり、転びやすさとの関係も同じではありません9。
睡眠薬の種類と、転倒・骨折についてわかっていること種類で違う。ただし新しい種類も「安心」とはまだ言えない
| 種類 | 転倒・骨折について | 高齢者向けの指針(2015年版) |
|---|---|---|
| ベンゾジアゼピン系 | 転ぶ人が多い(約1.4倍)。長く効くタイプほど多い。脚の付け根の骨折も多い(約1.5倍) | できるだけ使わない。長く効くタイプは使うべきでない |
| 非ベンゾジアゼピン系 | 骨折が多い(約1.6〜1.9倍)。ベンゾジアゼピン系の「安全な代わり」とは言えない | 漫然と長く使わない。少量にとどめる |
| オレキシン受容体拮抗薬 | 試験をまとめると、転倒・骨折は増えていなかった。一方、日本の地域の調査では、従来の睡眠薬より脚の付け根の骨折が多かった。結論はまだ出ていない | 高齢者のデータは乏しい |
| メラトニン受容体作動薬 | 従来の睡眠薬の副作用が起こりにくい可能性がある。転倒のデータは少ない | 高齢者のデータは乏しい |
「倍」は、飲んでいない人と比べた値(オレキシン受容体拮抗薬の日本の調査だけは、従来の睡眠薬を飲む人と比べた値)。ほとんどが観察研究で、薬だけのせいとは言い切れません。指針は75歳以上とフレイルの人が主な対象です。
新しい種類の結果が分かれていることについては、試験をまとめた研究者自身が、「転んだ人の数が少なく、高齢者のデータも足りないので、慎重に読むべき」と書いています1011。日本では、新しい種類の処方が増えています12。どの種類が合うかは、ほかの病気や飲んでいる薬も含めて、医師と決めることです。
転びやすくなるのは、こんなとき
睡眠薬で転びやすくなるのは、こんなとき場面と、その理由
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 飲み始めたばかり、量を変えたばかり | 脚の付け根の骨折は、飲み始めて間もない時期にいちばん多かった |
| 夜中に起きて、トイレへ | 夜中に起きたときに測ると、ふらつきが大きくなる睡眠薬があった |
| 飲んだあと、すぐ床に入らない | 寝つくまでの間に、ふらついたり、記憶がなくなったりすることがある |
| お酒を飲んだ夜 | ふらつき・物忘れなどが起こりやすくなる。お酒と睡眠薬の併用は、原則として避ける |
| 年齢を重ねてから | 薬が体に残りやすく、効きすぎや翌朝のふらつきが出やすい |
夜の転倒を、家で防ぐ
薬を見直すのと同じくらい、夜の家の中を見直すことが大切です。転びやすい人に合わせて家を工夫すると、転ぶ回数が減っていました13。
夜の転倒を、家で防ぐ睡眠薬を飲んでいる人も、いない人も
| すること | ねらい |
|---|---|
| 睡眠薬は、床に入る直前に飲み、飲んだらすぐ床へ | 寝つくまでのふらつきや、記憶のない行動を防ぐ |
| トイレまでの道に、足元灯や間接照明 | 暗さで転ばない。まぶしい光は眠りを妨げるので、足元だけを照らす |
| 段差・滑りやすい床・コードを見直す | つまずきや滑りの原因を、夜になる前に減らしておく |
脚とお尻の力やバランスをつける運動も、転ぶ回数を減らします。くわしくは転ばない体は、脚とお尻からをご覧ください。
市販の睡眠改善薬と、寝酒
薬局で買える睡眠改善薬は、旅行や心配事で数日眠れない、といった一時的な不眠のための薬です。長く続く不眠に使うものではなく、不眠症と診断された人は使わないのが原則です3。主な成分は、眠気の出る古いタイプのかゆみ止め(抗ヒスタミン薬)で、翌日まで眠気が残ることがあり、高齢者向けの指針でも、できるだけ控える薬に挙げられています32。
「薬より、お酒のほうが自然」と考える人もいます。けれど、寝つきが良くなるのは夜の前半だけで、後半は眠りが浅くなり、目が覚めやすくなります。毎日飲むと体が慣れて効かなくなり、飲まないと眠れなくなります314。毎日の寝酒をやめるときは、急にではなく週単位で量を減らすか、医療機関で相談しながら進めます14。
眠れないままでいることも、転びやすさと関係する
米国の介護施設の3万人あまりの調査では、睡眠薬を飲んでいることよりも、眠れていないことのほうが、その後の転倒と強く関係していました15。睡眠薬を使わないことが、いつも正解とは限りません。
薬を使わない不眠の治療もあります。くわしくは不眠は、薬の前に「眠りの練習」にあります。
減らしたい、やめたいとき
減らすときは、自分の判断で急にやめるのではなく、処方した医師と一緒に、少しずつ進めます3。
睡眠薬を減らすときの進め方必ず、処方した医師と一緒に
| ポイント | 中身 |
|---|---|
| 自分で急にやめない | 長く飲んだあとに急にやめると、不眠が一時的に悪化したり、不安やいらいらが出たりする。いくつも症状が出る人は、5人に1〜2人 |
| 少しずつ減らす | 1種類を4分の1錠ずつ減らし、1〜2週間ようすを見て、問題がなければ次の4分の1錠 |
| 多い人・長い人ほど、ゆっくり | 2錠以上、2種類以上、長い期間飲んでいる人 |
| 減らす順番は、医師が決める | 減らす睡眠薬の順番にも決まりがある |
| 眠りの練習を組み合わせる | 不眠の認知行動療法を一緒に行うと、減らせる人が増える |
| 減らした直後に眠りが浅くても | 多くは数日で戻る。続くときは、減らすのを止めて医師に相談 |
カナダの試験では、長く飲んでいた65歳以上の人が、薬の危険と減らし方を書いた冊子を受け取ると、半年後には4人に1人あまりが、ベンゾジアゼピン系の薬をやめられていました。冊子を受け取らなかった人では、20人に1人でした16。相談して、少しずつ減らすことはできます。
こんなときは、受診や相談を
こんなときは、受診や相談を自分の判断で薬をやめる前に
| こんなとき | どうする |
|---|---|
| 転んで、脚の付け根が痛み、立てない・歩けない | すぐに受診。動けなければ救急車を |
| 睡眠薬を飲み始めてから、ふらつく・転んだ | 早めに、処方した医師か薬剤師に相談 |
| 翌朝まで眠気やふらつきが残る | 種類や量を見直せることがある。処方した医師に相談 |
| 飲んだあとに、覚えていない行動があった | 処方した医師に相談 |
| 市販の睡眠改善薬を使っても眠れない日が続く | 市販薬を続けず、受診して原因を調べる |
まとめ
- 睡眠薬は効くが、効く分は小さい。転びやすさとの釣り合いを、医師と考える。
- 夜の転倒は、薬のふらつきと夜のトイレの重なりで起こりやすい。
- 種類で違うが、新しい種類も「安心」とはまだ言えない。
- 市販の睡眠改善薬と寝酒は、長く続く不眠の代わりの手段にならない。
- やめるときは、自分で急にではなく、医師と少しずつ。