眠りの目安や、よく眠るための基本は50歳からの睡眠に、年齢による眠りの変化と寝床にいる時間の目安は夜中に目が覚める、朝早く目が覚めるにまとめています。ここでは、長く続く不眠の「治療」の話をします。

海外の指針では、最初に勧められる治療

診療の指針は、CBT-Iをどう位置づけているか長く続く不眠の大人の場合

指針CBT-I睡眠薬
米国内科学会(2016年)すべての大人に、最初の治療として強く勧めるCBT-Iで不十分なとき、短い期間の使用を医師と話し合って決める
米国睡眠医学会(2021年)いくつかの方⁠法を組み合わせたCBT-Iを強く勧める。刺激制御法・睡眠制限法は単独でも(行動・心理療法の指針のため扱わない)
欧州睡眠学会(2023年)年齢や持病を問わず、最初の治療。対面でもデジタルでもよいCBT-Iで不十分なとき
日本(2013年)薬が十分に効かないときの次の手適正な使い方と、減らし方・やめ方を重視
出典:Qaseem A, et al. Ann Intern Med 2016/Edinger JD, et al. J Clin Sleep Med 2021/Riemann D, et al. J Sleep Res 2023/厚生労働科学研究班・日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」2013

日本の指針だけが「次の手」なのは、作られた2013年当時、CBT-Iに保険が使えなかったためです。その指針にも、最初の治療として、また薬と一緒に使う治療としても有効だと書かれています12。

何をするのか ― いくつかの方⁠法の組み合わせ

CBT-Iは、1つの方⁠法ではありません。中心になるのは、寝床の使い方と、寝床にいる時間の見直しです34。

不眠の認知行動療法(CBT-I)の中身いくつかの方⁠法を組み合わせる

方法することねらい
刺激制御法眠くなってから寝床へ。眠れないときは寝床を離れ、眠くなったら戻る。寝床でスマホや考えごとをしない「寝床=眠れない場所」という結びつきを断つ
睡眠制限法寝床にいる時間を、実際に眠れている時間まで一度縮め、眠れるようになったら少しずつ延ばす眠気をためて、とぎれとぎれの眠りをまとめる
認知療法「今夜も眠れなかったらどうしよう」という不安や、眠りについての思い込みを見直す寝床での緊張をほどく
リラクセーション筋肉の力を抜く、呼吸を整える寝る前の体と頭の緊張を和らげる
睡眠衛生カフェイン、お酒、寝室の明るさや音などを整える土台。これだけでは効果は小さい
出典:Trauer JM, et al. Ann Intern Med 2015/Edinger JD, et al. J Clin Sleep Med 2021(米国睡眠医学会)/Chung KF, et al. Fam Pract 2018/日本睡眠学会ほか「不眠障害用アプリ 適正使用指針(第3版)」2026/厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」

眠れない夜が続くと、寝床に入るだけで「また眠れないかもしれない」と緊張するようになります。早めに寝床に入り、朝も長く横になって、眠る時間を取り戻そうともします。CBT-Iは、この2つの悪循環を、行動の側から断ち切る治療です2。

どのくらい効くのか

試験でわかった、CBT-Iの効き方ランダム化試験をまとめた研究から

見たこと結果もとになった研究
寝つくまでの時間約19分短くなった20試験・1,162人(平均56歳)
夜中に目が覚めている時間約26分短くなった同上
眠っている時間の合計ほとんど変わらなかった(約8分)同上
効果の続き方治療後1年まで続いた(少しずつ弱まる)30試験
55歳以上の人中年の人と同じように改善した23試験

数字は眠りの日誌によるものです。

出典:Trauer JM, et al. Ann Intern Med 2015/van der Zweerde T, et al. Sleep Med Rev 2019/Irwin MR, et al. Health Psychol 2006

眠る時間そのものより、寝つきと、夜中に目が覚めている時間が変わる治療です。寝床にいる時間のうち、眠っている時間が増え、眠りがまとまります3。60歳を超える人の研究では、寝床の使い方と寝床にいる時間の見直しを組み合わせたほうが、効果が大きくなっていました5。

睡眠薬と比べると

睡眠薬と、CBT-Iを比べると早さの薬、続くCBT-I

比べたこと睡眠薬CBT-I
効き始め早い数週間かかる
6週後(160人の試験)CBT-Iに薬を足すと、眠る時間がやや長くなった改善した人は100人中60人。薬を足しても61人
半年後(平均61歳・46人の試験)偽の薬とほとんど差がなかった睡眠薬より、寝床で眠っている時間の割合がよくなった
やめたあと不眠が戻りやすい効果が続きやすい
出典:Morin CM, et al. JAMA 2009/Sivertsen B, et al. JAMA 2006/Mitchell MD, et al. BMC Fam Pract 2012/日本睡眠学会ほか「不眠障害用アプリ 適正使用指針(第3版)」2026

睡眠薬を飲んでいる人が、CBT-Iを始めることもできます。カナダの試験では、薬と一緒に始め、そのあと薬をやめてCBT-Iを続けた人で、半年後に不眠が治まっていた人がいちばん多く、3人に2人でした。薬を続けた人では、5人に2人でした6。

睡眠薬の減らし方や、睡眠薬と転倒の関係は、睡眠薬と、夜の転倒・骨折にまとめています。自分の判断で急にやめたりせず、処方した医師と相談してください。

家で試せる形

CBT-Iのうち、行動の部分は家でも試せます。国の睡眠ガイドも、同じ方⁠向の工夫を勧めています7。

家で試せる、4つの約束CBT-Iのうち、行動の部分

約束やり方
1. 記録する1〜2週間、寝床に入った時刻・出た時刻と、実際に眠った時間を分けて書く
2. 起きる時刻をそろえる休日も、起きる時刻を大きくずらさない
3. 眠くなってから寝床へ眠れないときは寝床を離れ、静かで暗めの場所で過ごし、眠くなったら戻る
4. 寝床にいる時間を絞る実際に眠れている時間に近づける。自分で縮めるなら6時間まで

医療機関で行う睡眠制限法では、記録を見ながら週ごとに15分単位で調整します。

出典:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf/Kyle SD, et al. Sleep 2014

4つのうち、いちばん気をつけて行いたいのが、4つ目の「寝床にいる時間を絞る」です。英国では、看護師が4回、合わせて1時間ほど指導するこの方⁠法で、半年後の不眠の重さが、生活の注意の冊子だけの人より軽くなっていました。参加者の平均年齢は55歳でした8。

始めの数週間は、昼間に眠くなる

寝床にいる時間を縮めると、始めのうちは実際の眠りも短くなります。脳波で測った研究では、始めの3週間ほど昼間の眠気が強まり、注意力も落ちていました。3か月後には、どちらも元に戻っていました9。

この時期に強い眠気を感じたら、車の運転は控え、寝床にいる時間を少し戻します9。

自分で始める前に、医師と相談したい人とくに、寝床にいる時間を縮める方⁠法

こんな人理由
てんかん、双極性障害、うつ病などで治療中眠りを削ると、病気が悪くなることがある
心臓の病気、がんの治療中、強い慢性の痛みなどがある。妊娠中眠りを削ると、体調が悪くなることがある
夜勤や交代勤務がある起きる時刻をそろえられない
運転や高い所での作業など、眠気が事故につながる仕事眠気が事故につながる
睡眠薬を飲んでいる。足腰が弱い夜中に寝床を離れるとき、転びやすい
出典:日本睡眠学会ほか「不眠障害用アプリ 適正使用指針(第3版)」2026/Kyle SD, et al. BMJ Open 2020(HABIT試験の計画書)/Kyle SD, et al. Sleep 2014

日本で受けるには

日本では、CBT-Iを行う医療機関はまだ多くありません。かかりつけ医を対象にした調査では、CBT-Iを知っている医師は10人に4人ほどで、実際に行うことはまれでした10。保険の扱いが変わったのは、2026年6月です1112。

日本でCBT-Iを受けるには保険で受けられる2つの道

受け方対象内容
医療機関で、対面のCBT-Iうつ病・不安障害を伴う不眠症。または、睡眠薬を2種類以上使っても効果が不十分な不眠症保険の対象。一連で8回まで
治療用アプリ(医師が処方)軽症〜中等症の不眠症(対象にならない条件がある)保険の対象。研修を受けた医師が処方する。1⁠週⁠間の記録のあと、8週間
まず相談する先上に当てはまるかわからない人かかりつけ医、睡眠の専門医

行っている医療機関は、まだ限られます。

出典:厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日 保医発0305第6号)I003-2/日本睡眠学会ほか「不眠障害用アプリ 適正使用指針(第3版)」2026

アプリの日本の試験では、8週間の治療のあと、不眠の点数が正常の範囲まで下がった人は、偽のアプリで100人中10人、本物のアプリで100人中38人でした13。ただ、アプリは対面のCBT-Iより画一的で、同じ効果があるかは確かめられていません2。海外の試験をまとめた研究でも、デジタルのCBT-Iは効果があり、対面のほうがやや上でした14。

こんなときは、受診を

  • 大きないびき、呼吸が止まっていると言われる、昼間に強い眠気がある:睡眠時無呼吸のことがあります。寝床の時間を縮める前に、受診を。くわしくはいびきと昼の眠気に。
  • 夕方から夜に、脚がむずむずして眠れない:別の睡眠の病気のことがあります7。
  • 気分の落ち込みが続く、死にたい気持ちがある:眠りの工夫より先に、すぐに医師に相談してください2。
  • 家での工夫を数週間続けても、昼間の生活に支障が続く:かかりつけ医か、睡眠の専門医へ7。

まとめ

  • 長く続く不眠には、薬を使わない治療、CBT-Iがある。海外では最初の治療。
  • 中心は寝床の使い方と寝床にいる時間の見直し。生活の注意だけでは足りない。
  • 寝つきと夜中の目覚めが改善し、効果は治療後も続きやすい。
  • 寝床の時間を縮めると、始めの数週間は昼間に眠くなる。運転に注意。
  • 日本では2026年6月から、対面のCBT-Iと治療用アプリに保険が使える道ができた。