日本では「サウナに8〜12分、水風呂、外気浴を1セットとして3セット」という入り方が、「お作法」としてよく紹介されます。私のやり方はそれとはだいぶ違いますが、自分なりに楽しんでいます。では、そのお作法はどこから来たのでしょうか。サウナの本場フィンランドから、順にたどってみます。

フィンランドに「3セット」はない

フィンランドには、人口550万人の国にサウナが330万あるとされます1。車よりサウナのほうが多い国です2。2020年には、フィンランドのサウナ文化がユネスコの無形文化遺産に登録されました1。

その本場に、決まった入り方はあるのでしょうか。フィンランド・サウナ協会が移住してきた人向けに作った案内では、体の冷やし方として、シャワーを浴びる、外に座る、湖や海で泳ぐ、が例に挙がっています。そして「体を冷やすものなら何でも良い」と続きます2。フィンランド政府観光局の案内も、入っている時間は「数分でも数時間でも、体の声を聞いて、必要なときに冷やす」としています3。

湖のほとりのサウナ小屋の外で、ベンチに座って涼む男性
湖のほとりのサウナ小屋の外で、ベンチに座って涼む男性

熱した石に水をかけて蒸気を立てる「ロウリュ」も、フィンランドの言葉です。ユネスコの説明では、この蒸気は精霊のようなものとして大切にされてきました1。ロウリュをどのくらいの間隔でかけるかにも、決まりはありません4。協会の案内にあるのは「みんなが望むときだけ、石に水をかける」という、ひとつの気づかいだけです2。

フィンランドで暮らす日本人ライターによると、街なかのサウナには水風呂がほとんどありません。冷たいシャワーで汗を流して、外で涼む時間を大事にするそうです5。水風呂と時計で組み立てた日本の作法は、少なくとも本場から来たものではなさそうです。

どのくらい古いのか

「サウナは数千年前からある」という話もよく見かけます。ただ、フィンランド・サウナ協会自身の説明は「1000年以上の歴史がある」という控えめなものです2。古い形の、煙突のない「スモークサウナ」もいまも大切にされていて、焚いてから煙が抜けるまで1時間はおいて入ります6。

日本は、もともと蒸し風呂の国

日本人は昔から湯船に浸かってきた、と思いがちです。ところが、中世から江戸の初めにかけての「風呂」は、湯気で体を蒸す蒸気浴が中心でした78。

寺には「浴堂」と呼ばれる建物があり、人々に風呂を施していました7。奈良の東大寺には、鉄の湯船の上に小さな木の屋根を掛けて湯気を逃がさないようにした、大きな湯屋がいまも残っています9。瀬戸内海の沿岸には、石の室を焚いて温める「石風呂」が多くありました。研究者はこれを、石室を使った「サウナ」と説明しています8。

江戸で最初の銭湯も、蒸し風呂だったと考えられています7。「戸棚風呂」は浴槽の底に膝が浸かるくらいの湯を張り、上半身は湯気で蒸すものでした。出入り口には天井から板を低く下げた「石榴口(ざくろぐち)」があり、湯気が逃げるのを防いでいました7。首まで湯に浸かる入り方は、近世以降に定着したものです78。

戦後にやってきたサウナは、その意味では里帰りした蒸し風呂とも言えます。

サウナが日本にやってくるまで

日本で「サウナ」と名乗った最初のものは、1957年に銀座の「東京温泉」に作られました1011。前の年のメルボルン・オリンピックに射撃の選手として出場した東京温泉の許斐氏利(このみ うじとし)氏が、現地でサウナを知って持ち帰ったとされます12。

広く知られるきっかけは、1964年の東京オリンピックでした。フィンランドの選手団が選手村に持ち込んだサウナが話題になったのです1013。1966年ごろから街なかにサウナの看板が並び、日本サウナ・スパ協会の顧問はこれを「第一次サウナブーム」と呼んでいます10。高度経済成長の時代で、忙しく働く男性の疲れをとる場として、カプセルホテルと一体になったサウナが増えました13。

「3セット」と「ととのう」ができるまで

フィンランドと日本の入り方本場の案内と、日本でよく聞く作法

フィンランド日本でよく聞く作法
温度70〜90℃。熱した石に水をかけて蒸気を立てる(ロウリュ)昭和は乾いた高温が主流。いまはロウリュも広まった
時間決まりなし。「数分でも数時間でも、体の声を聞いて」8〜12分
回数決まりなし2〜3セット
冷やし方シャワー、外に座る、湖や海で泳ぐ。「体を冷やすものなら何でも良い」水風呂
休み方外で涼む。街なかのサウナに水風呂はほとんどない外気浴

日本の作法は、日本サウナ・スパ協会が昭和の時代から勧めてきた目安がもとになっている。

出典:Finnish Sauna Society 移住者向け公式マンガ/Visit Finland「Sauna」/All About(こばやしあやな 2023)/早稲田ウィークリー(中山眞喜男 2022)/ウォーカープラス(若林幹夫 2023)
サウナ室の扉、水風呂、休憩用のいす
サウナ室の扉、水風呂、休憩用のいす

「サウナ、水風呂、休憩」という入り方は、日本サウナ・スパ協会が昭和の時代から「サウナ8〜12分、水風呂、休憩」として勧めてきたものです13。協会の顧問はこれを1セットとして、2〜3回くり返すのを基本としています10。

この入り方に、水風呂の気持ちよさと「ととのう」という言葉を結びつけたのが、マンガ家タナカカツキ氏の『サ道』です。2011年に本が出て、2019年にはテレビドラマになりました1014。テレビ局の発表は「ととのう」を「サウナ室〜水風呂〜休憩(外気浴)を3回程度くりかえすことで得られる、多幸感、一種のトランス状態」と説明しています14。

「ととのう」の生みの親

「ととのう」という言葉は、医学の用語ではありません。生みの親とされるのは、「濡れ頭巾ちゃん」の名で知られるサウナ愛好家です。2009年ごろ、仲間と北海道のサウナに行ったあとの食事の席で、あの気持ちよさを表す言葉として生まれたそうです15。タナカ氏も、もとは仲間内で使われていた言葉を『サ道』で取り上げたと書いています16。2021年の新語・流行語大賞では、30語のノミネートに入りました17。

面白いのは、その生みの親が時間の決まりにこだわっていないことです。サウナに何分入るべきかと聞かれて「出たいときに出る」と答え、水風呂も「時間は決めずに出たくなったら出ます」と話しています15。「ととのう」がどういう状態かについても「人それぞれで定義ができない」と言っています15。12分計をにらみながら我慢していた方には、少⁠し⁠拍⁠子⁠抜⁠けする答えかもしれません。

よく聞く話を確かめる

サウナの作法、「よく聞く話」を確かめる歴史と公式の資料でわかっていること

よく聞く話わかっていること判定
サウナは数千年前からあるフィンランド・サウナ協会自身の説明は「1000年以上」△
フィンランド人は必ず冷たい水に飛び込む冷やし方はシャワー、外に座る、湖や海。何でもよい×
3セットはフィンランドの正式な決まり回数の決まりはない。日本の協会と『サ道』が広めた目安×
「ととのう」は医学の言葉2009年ごろに愛好家の間で生まれた言葉。生みの親も「定義ができない」×
日本で最初のサウナは1964年の東京五輪最初は1957年の銀座・東京温泉。1964年は広く知られたきっかけ×
日本人は昔から湯船に浸かってきた中世から江戸の初めまでは、湯気で蒸す蒸し風呂が中心×
出典:Finnish Sauna Society/Visit Finland/早稲田ウィークリー(中山眞喜男 2022)/価格.comマガジン(濡れ頭巾ちゃん 2022)/@DIME 2025/東京都浴場組合「銭湯の歴史」/小林宏至「石風呂の現在」

作法を守ること自体は悪いことではありません。初めての人には目安があると入りやすく、混んだ施設では順番の気づかいにもなります。ただ、それはフィンランドから受け継いだ決まりでも、科学で決まった処方でもありません。日本で育った、ひとつの楽しみ方です。

時間や回数が体にとってどうなのかは、サウナは体にいいのか ― 研究でわかっていることで、水風呂と湯船を行き来する入り方は水風呂と交代浴 ― 冷たい水の効き目と危なさで確かめます。休み方全体については休むことも、からだづくりにまとめています。

まとめ

  • フィンランドに「3セット」「水風呂1分」のような決まりはない。冷やし方は何でもよく、時間は体と相談する。
  • 日本の風呂は、もともと湯気で蒸す蒸し風呂が中心だった。湯船に浸かる入り方は近世以降に広まった。
  • 日本の最初のサウナは1957年の銀座。1964年の東京オリンピックで広く知られた。
  • 「サウナ、水風呂、休憩を2〜3回」は日本の協会が勧めてきた目安で、『サ道』が「ととのう」と結びつけて広めた。
  • 「ととのう」の生みの親は「出たいときに出る」と言っている。