
ここでは、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師という3つの国家資格を、歴史と研究と安全の面から見ていきます。保険を使うときの医師の同意書は医師の同意書は「指示」ではなく「同意」に分けて書きました。
1300年前から、国の医療の中に
701年の大宝令で、朝廷の医療をつかさどる典薬寮に医博士と並んで「針博士」と「按摩博士」が置かれました1。はり・きゅう・あん摩は、日本の医療制度の始まりからその中にあったことになります。
江戸時代には、全盲の鍼師だった杉山和一が細い管に鍼を入れて刺す「管鍼法」を広めました。視覚障害者に鍼と按摩を教える場を開き、これが視覚障害者の職業として根づく礎になったといわれます2。
明治になると国の医療は西洋医学を正規のものとし、はり・きゅう・あん摩は医療とは別の規則で扱われるようになりました。戦後の1947年に今の法律のもとができます34。指圧が法律に加わったのは1955年です5。
視覚障害者の仕事を守る条文
あん摩マッサージ指圧師の法律には、視覚障害者の生活を守るための条文があります。視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計が成り立たなくなるおそれがあるとき、国は視覚障害のない人のための養成学校を新しく認めないことができるというものです4。
この条文をめぐっては学校を開こうとした学校法人が国を訴え、最高裁判所は2022年、職業選択の自由を定めた憲法に違反しないと裁判官全員一致で判断しました6。判決が認めた事実では、あん摩マッサージ指圧師のうち視覚障害のある人は1962年には過半数でしたが、2014年には4人に1人足らずになっていました6。
施術所を選ぶのにこの歴史は要りません。ただ目の見えない施術者に出会ったとき、その仕事が何百年も続いてきたものだと知っていると、少し見え方が変わるかもしれません。
研究でわかっている効き目
はり・マッサージの効き目、研究でわかっていること比べた相手で、答えが変わる
| 症状 | 比べた相手 | わかっていること |
|---|---|---|
| 慢性の痛み(腰・首・関節・頭痛・肩) | 偽の鍼 | 本物の鍼のほうが痛みは少し減る。差は小さい |
| 慢性の痛み(同上) | 鍼をしない | 本物の鍼のほうが、はっきり痛みが減る。1年後もおおむね残る |
| 慢性の腰痛 | 偽の鍼 | 治療の直後に差はあるが、臨床的に意味のある大きさに届かない |
| 50歳以上の慢性の膝の痛み | 偽のレーザー鍼 | 12週で差がなかった |
| 腰痛へのマッサージ | 何もしない | 短い期間は痛みが和らぐ可能性。長く続く効果は、はっきりしない |
| 日本の腰痛のガイドライン | — | 鍼もマッサージも、勧めるとも勧めないとも言えない(日本の研究が足りない) |
鍼の研究では、本物の鍼と刺さない鍼や浅く刺すだけの「偽の鍼」を比べます。慢性の痛みについて約2万人分のデータをまとめた解析では、本物の鍼は偽の鍼より痛みを少し減らし、鍼をしない場合よりははっきり減らしていました。効果は1年後もおおむね残っていました7。

慢性の腰痛だけを見たまとめでは、偽の鍼との差は臨床的に意味のある大きさに届きませんでした。鍼をしない場合と比べると、治療の直後に痛みと動きの改善が見られました8。50歳以上の膝の痛みを調べた試験では、鍼は偽の鍼と差がありませんでした9。
マッサージは腰痛の痛みを短い期間和らげる可能性がありますが、長く続く効果ははっきりしていません10。
ガイドラインの判断は割れています。
- 日本の腰痛の診療ガイドラインは、鍼もマッサージも日本での研究が足りないとして、勧めるとも勧めないとも書いていません11。
- 英国の公的な指針は、腰痛にも変形性関節症にも鍼を勧めないとしています12。
- 米国内科学会は、慢性の腰痛でまず試す方法の一つに鍼を挙げています13。
私の読み方では、鍼やマッサージは痛みを和らげる選択肢の一つで、病気そのものを治すものではありません。楽になったら、それを体を動かすきっかけにしてほしいと思います。
気をつけたい人と、安全のこと
鍼の重い事故はまれで、多くの調査をまとめると1万人に1件ほどです14。よくあるのは刺したところの小さな内出血や痛み、施術のあとのだるさで、多くはすぐに消えます1415。
全日本鍼灸学会の安全のガイドラインは、いちばん注意すべき事故に気胸(肺に穴があいて空気がもれること)を挙げています16。肩や背中、胸に鍼をしたあとで胸の痛みや息苦しさが出たら、すぐに医療機関へ行ってください。
同じガイドラインは、次のような人に注意を求めています16。
- 血をさらさらにする薬を飲んでいる人、出血しやすい病気のある人
- ペースメーカーや植込み型の除細動器を入れている人(鍼に電気を流す「鍼通電」はしてはいけない)
- 人工関節を入れている人(その場所に直接は刺さない)
- 糖尿病の人、ステロイドを飲んでいる人(感染に注意)
骨粗しょう症のある人や背骨の圧迫骨折をしたことのある人では、強く押したりひねったりするマッサージで骨が折れた例が報告されています1718。施術の前に伝えて、強い刺激は避けてもらってください。
学会のガイドラインは、滅菌済みの使い捨ての鍼を使うよう勧めています16。法律で決まっているのは消毒までなので4、気になれば聞いてかまいません。
「もみほぐし」とは何が違うか
国家資格を持たない人が仕事としてあん摩やマッサージ、指圧、はり、きゅうをすることは、法律で禁じられています4。一方で街には「もみほぐし」「リラクゼーション」の店がたくさんあります。
国は、資格がいらないのは健康に害を及ぼすおそれのない施術だけという考え方をとっています。ただ、どこまでが「マッサージ」でどこからが「リラクゼーション」なのかという線は、はっきり示していません19。消費者庁には、整体やカイロプラクティック、リラクゼーションマッサージなど資格制度のない施術で体を傷めたという報告が寄せられています20。2025年に国が出した広告の指針は資格のない店が「腰痛」「膝の痛み」への施術をうたうことは「表現すべきでない」としました21。
肩や腰が凝ってくつろぎたいのか、痛みをどうにかしたいのか。痛みのためなら国家資格を持つ人に施術してもらうのが筋です。資格者は「はり師(国家資格保有)」のように資格を示すことができます21。分からなければ、聞いてかまいません。
まとめ
- はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師は国家資格。日本の医療制度の始まりからある仕事で、視覚障害者の職業として続いてきた。
- 鍼は偽の鍼より少しだけ効き、鍼をしない場合よりは痛みを減らす。ガイドラインの評価は割れている。
- 重い事故はまれ。施術のあとの胸の痛み、息苦しさはすぐ受診する。
- 血をさらさらにする薬、ペースメーカー、人工関節、糖尿病、骨粗しょう症は、施術の前に伝える。
- 「もみほぐし」は国家資格の施術ではない。痛みのためなら資格者へ。
整形外科や接骨院、整体との違いは看板の違いを、資格と歴史で見分けるに、保険が使えるかどうかは接骨院で保険が使えるのは、けがのときにまとめています。