腰に手を当てて、並んだ施術所の看板を見比べる女性
腰に手を当てて、並んだ施術所の看板を見比べる女性

私は整形外科医なので、どうしても医師の側から見てしまいます。ここでは私の好みを脇に置いて、法律と国の資料に書いてあることだけで違いを並べてみます。

国の資格があるのは3つ

整形外科・接骨院・鍼灸マッサージ・整体・カイロの違い法律と国の資料から

国の資格学ぶ年数できること法律でできないこと健康保険
整形外科(医師)あり(医師免許)医学部6年+研修2年、専門医はさらに研修診断、レントゲン・MRI、薬、注射、手術、リハビリの指示—使える(保険診療)
接骨院・整骨院(柔道整復師)あり(大臣免許)3年以上骨折・脱臼・打撲・捻挫・肉ばなれを、切らずに整えて固定する手術、薬、レントゲン、医師の同意のない骨折・脱臼の施術(応急手当を除く)はっきりした、けがのときだけ
鍼灸院・マッサージ(はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師)あり(大臣免許)3年以上はり、きゅう、あん摩・マッサージ・指圧医行為医師の同意書がある決まった症状のときだけ
整体なし(民間資格のみ)決まりなし健康に害を及ぼすおそれのない手技健康に害を及ぼすおそれのある施術使えない(全額自費)
カイロプラクティック日本ではなし(民間の登録制度のみ)決まりなし健康に害を及ぼすおそれのない手技首を急にひねるスラスト法は「禁止する必要」(国の通知)使えない(全額自費)
出典:柔道整復師法/あはき法/医師法/診療放射線技師法/最高裁 昭和35年1月27日大法廷判決/厚生省 医事第58号(平成3年)/厚生労働省「柔道整復師の施術を受けられる方へ」

体の痛みに手を当てる仕事で国の免許がいるのは、医師と柔道整復師(接骨院・整骨院・ほねつぎ)、それにあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の3つです。医師以外は、3年以上学校で学んで国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けます12。

整体とカイロプラクティックには、国の資格がありません。法律で「整体とはこういうものだ」と決めた定義もありません3。看板に「認定」「協会」とあっても、それは民間の団体が出している資格です。

2024年末の数でいうと、施術所で働く柔道整復師は約7万9千人で、柔道整復の施術所は約5万1千か所あります4。整形外科を主に診ている医師は約2万3千人です5。病院や整形外科のクリニックで働く柔道整復師は、この数に入っていません4。

接骨院・整骨院(柔道整復師)

柔術から生まれた「ほねつぎ」

柔道整復師の団体は、その源を柔術に置いています。柔術には相手を倒す技のほかにけがを手当てする技があり、それが「ほねつぎ」「接骨」として受け継がれたという説明です6。

江戸の北千住には「骨つぎの名倉」と呼ばれた家があり、関東一円から患者が来たそうです。この家は明治以降、整形外科の医院として続きました7。看板の違う2つの仕事は、案外近いところから枝分かれしています。

柔道整復が国の仕組みに入ったのは大正時代で、1970年に今の柔道整復師法ができました16。

できること、できないこと

柔道整復師の仕事は、骨折や脱臼、打撲、捻挫、肉ばなれを切らずに整えて固定することです68。法律では、手術をすることと薬を出すことが禁じられています。骨折と脱臼は、応急手当を除いて医師の同意がないと施術できません1。レントゲンを撮ることも認められていません9。病名をつける診断は医師の仕事です。

接骨院で、ひねった足首に包帯を巻いてもらう男性
接骨院で、ひねった足首に包帯を巻いてもらう男性

柔道整復師の全国団体は、国の会議に出した資料にこう書いています。「骨盤矯正や脊椎矯正、頭痛や冷え性、単なるマッサージなどを行う接骨院や整骨院がありますが、これらは柔道整復師の業務範囲ではありません」6。

看板に書ける言葉も法律で決まっていて、名前に添えられるのは「ほねつぎ」「接骨」です110。2025年に国が出した広告の指針では、「骨盤矯正」「交通事故専門」のような言葉や「整体」「カイロプラクティック」を施術所の名前に使うことが、広告できない例に挙がっています11。

はり・きゅう、マッサージ

はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師も、国家試験を通った人が持つ免許です2。仕事をしている人は、2024年末でそれぞれ10万人を超えます4。国の資格がない人が仕事としてあん摩やマッサージ、はり、きゅうをすることは、法律で禁じられています2。

整体とカイロプラクティック

整体

1947年の法律は、資格のない人が「医業類似行為」を仕事にすることを原則として禁じました12。1958年には、国が数百種類の民間療法を調べたうえで「いずれも積極的に取り上げるべきものは見当らず」と国会で答えています13。

それでも整体が続いているのは、1960年の最高裁判所の判決があるからです。判決は、禁止されるのは「人の健康に害を及ぼす虞(おそれ)のある」施術に限られるとしました14。国は今もこの考え方で線を引いています15。整体そのものが違法なわけではありません。ただ、国が効果や安全を確かめた資格でもありません。

カイロプラクティック

カイロプラクティックは、1895年に米国アイオワ州でD.D.パーマーという人が始めました。最初の患者は背骨を手で整えたら耳が聞こえるようになったと証言した、と伝わっています16。これは始めた側の逸話で、効果を確かめた記録ではありません。

業界団体によると、米国やカナダ、オーストラリアなどでは、専門の大学で学ぶ法律上の資格になっています17。日本には、その資格がありません3。

日本の国は1991年に、カイロプラクティックについて都道府県へ通知を出しています18。

  • 首を急にひねって伸ばす「スラスト法」は、体を傷つける危険が大きいので、禁止する必要がある。
  • 椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変形性脊椎症、骨粗しょう症、脊椎すべり症などと診断されている人は、カイロプラクティックの対象にするのは適当でない。
  • 施術を続けても腰痛などが良くならなければ、施術をやめて医療機関で詳しく調べる。

2つ目に並んでいる病気は、50歳を過ぎると珍しくないものばかりです。診断を受けている人は、強く押したりひねったりする施術を受ける前に、そのことを伝えてください。

整形外科(医師)

整形外科医は、医学部で6年学んで医師国家試験に合格し、2年の臨床研修のあとに整形外科の研修を積んだ医師です1920。

医師にしかできないのは、診断をつけることです。レントゲンやMRIで骨や神経を調べて、薬や注射を出し、必要なら手術をします。リハビリでは、医師の指示を受けた理学療法士が運動を指導します21。

逆に言えば、整形外科は痛みの原因を確かめる場所です。骨折やがん、神経の圧迫のように手で押しても良くならない原因が隠れていないかを調べられるのは、医療機関です。

年表で見ると

ほねつぎ・はり・整体・カイロの年表国の仕組みに入った年を中心に

年できごと
1770年ごろ北千住の名倉家が「ほねつぎ」を開く。明治以降は整形外科の医院に
1895年米国アイオワ州で、パーマーがカイロプラクティックを始める
1911年あん摩、はり・きゅうの営業を取り締まる国の規則ができる
1920年「柔道整復術」が国の規則の中で認められる
1947年あん摩・はり・きゅう・柔道整復の法律。それ以外の医業類似行為は原則禁止に
1958年国が「いずれも積極的に取り上げるべきものは見当らず」と国会で答弁
1960年最高裁が、禁止は「健康に害を及ぼすおそれ」のある施術に限ると判断
1970年柔道整復師法が独立した法律に
1991年国がカイロプラクティックについて通知。首のスラスト法は禁止する必要
2025年国が施術所の広告の指針を出す。「整体」「骨盤矯正」などを名前に使わない
出典:名倉家:三井住友トラスト不動産「このまちアーカイブス 千住」/Palmer College Library/あん摩、はり、きゆう、柔道整復等営業法(昭和22年)附則/日本柔道整復師会(労災保険部会資料 2020)/衆議院 答弁書(昭和33年4月11日)/最高裁 昭和35年1月27日判決/柔道整復師法(昭和45年法律第19号)/医事第58号(平成3年)/医政発0218第1号(令和7年)

並べてみると、ほねつぎもカイロプラクティックも西洋医学の仕組みの外側で育ってきたことがわかります。どこへ行くかを決めるには、この違いに加えて保険が使えるかどうかと、安全と効果の根拠も知っておきたいところです。それは腰や肩が痛いとき、どこへ行くかにまとめました。