階段を下りるとき、私たちは段の縁を、レンズの下のほう、つまり手元用の部分を通して見ています。そのため段の縁がぼやけたり、近く見えたりします。遠近両用などのメガネをふだん使う人は転ぶことが多く、外出先や階段でとくに多かったと報告されています1。

私自身、乱視が悪くなり、老眼も始まっています。それでも、いまのところ遠近両用のメガネは使っていません。この記事に書く階段の話が、その理由の一つです。

遠近両用をやめましょう、という話ではありません。使うなら、どこに気をつければよいかをまとめました。老眼そのものについては老眼は「回復」しないに書いています。

なぜ足もとがぼやけるのか

遠近両用のレンズは、上のほうで遠くを、下のほうで手元を見るように作られています。境目のない累進レンズでは、その間に中くらいの距離を見る部分があります。

遠近両用レンズの、どこで何を見るか足もとの段も、下の部分を通して見ることになる

レンズの場所合わせてあるもの
上の部分遠く(景色、人の顔、駅の案内)
真ん中(累進レンズ)中くらいの距離(パソコン、台所の作業)
下の部分手元(本、スマホ)。
足もとや段の縁も、ここを通すとぼやける

足もとは、あごを引いて顔ごと下を向き、上の部分で見ます。

出典:Lord SR. Age Ageing 2006;35 Suppl 2:ii42-5/Menant JC, et al. J Am Geriatr Soc 2009;57:1833-8

手元用の部分は、本やスマホを読む距離に合わせてあります。立っている人の足もとは、それよりずっと遠くにあります。下の部分を通して床や段を見ると、輪郭がぼやけ、奥行きもつかみにくくなります2。

足もとをはっきり見ようとすると、あごを引いて顔ごと下を向き、レンズの上の部分で見ることになります。ところが人は、つい目だけを下げてしまいます。

研究でわかっていること

段を下りる動きを詳しく測った研究では、遠近両用のメガネをかけた人は、下の段に「落ちるように」着地していました。遠く用のメガネにかけ替えると、着地は落ち着いていました3。段を上がるときも、つま先の上がり方がばらつき、つまずくことが多くなっていました4。

前にある文字を読みながら障害物のある道を歩く実験では、遠近両用の人は障害物に当たる回数が増えました。顔を下に向けず、目だけを下げて足もとを見ていたためと考えられています5。

これらの研究の多くは、65歳以上で、長く遠近両用を使ってきた人が対象です。初めて累進レンズをかけた人を調べた研究は少なく、その中には46〜56歳の人も含まれていました。そこでも、段を下りるときの着地の衝撃が大きく、動きが不安定になっていました6。50代で使い始めたばかりの時期は、とくに気をつけたい時期といえます。

一方で、遠近両用をやめればよい、とも言い切れません。外を歩くときだけ遠く用のメガネにかけ替えてもらう試験では、ふだんよく外に出かける人で転倒が減りました。あまり外に出ない人では、外での転倒がかえって増えていました78。かけ替えが役に立つかは、暮らし方によります。

使うときの工夫

  • 外出や階段用に、遠く用のメガネを1本持つ。よく出かける人に向いています37。
  • かけ替えが面倒なら、眼鏡店で相談する。手元の度を少し弱めた累進レンズは、階段での動きが遠く用のメガネと同じくらい安定し、短い読み書きもできた、という実験があります9。ただし、転倒そのものを確かめた研究ではありません。
  • 足もとは、あごを引いて顔ごと下を向いて見る。歩きながら文字やスマホを読まないようにします5。
  • 使い始めの数週間は、手すりを持ってゆっくり。とくに下りです。慣れるまでは、頭の動かし方も変わります610。
  • 度数を大きく変えた直後も、慎重に。新しいメガネや大きな度数の変更は、それだけで転ぶきっかけになりえます1112。
  • 自宅の階段は、段の縁に目立つ色の線を。線は縁にぴったり揃えます。縁から少し離して貼ると、かえって足の運びが乱れました13。
駅の階段で手すりを持ち、あごを引いて足もとを見ながら下りる眼鏡の女性
駅の階段で手すりを持ち、あごを引いて足もとを見ながら下りる眼鏡の女性

バランスそのものを確かめたいときは片脚で、何秒立てますかを、鍛え方はバランスは鍛えられるをご覧ください。

白内障の手術のあと

白内障の手術を受けると、見え方とともに、メガネの度数も変わります。この時期にも、転ぶ危険がひそんでいます。

白内障の手術と、1年あたりの転倒両目の手術を終えると、いちばん少なくなる

手術の前
1.17回
1眼目の手術のあと
0.81回
2眼目の手術のあと
0.41回

1眼目と2眼目の間は、見え方の左右差や度数の変化に気をつける時期です。

出典:Keay L, et al. Med J Aust 2022;217:94-9(65歳以上の409人)

1眼目の手術で転倒は減りますが、手術した目のメガネの度数が大きく変わった人では、かえって転倒が増えていました14。1眼目と2眼目の手術の間に、入院が必要な転倒が増えていたという大きな調査もあります15。両目の手術を終えると、転倒はいちばん少なくなっていました16。

手術のあと、すぐに遠近両用のメガネに切り替えた人では、転倒が増えていました17。

  • 2眼目の手術を勧められたら、間をあけすぎないように主治医と相談する。
  • 手術のあとのメガネは、慣れるまで、階段や外出で慎重に使う。

遠くと手元の両方に合う「多焦点眼内レンズ」については、今のところ転倒を増やすという報告は見当たりません18。ただ、研究の数はまだ多くありません。眼内レンズの選び方は老眼は「回復」しないにまとめています。