50代の目には、いくつかの変化が重なってやってきます。手元のピントが合いにくくなる老眼、年齢で向きが変わる乱視、夕方の乾き。世界では約18億人が老眼です1。ここでは、それぞれの仕組みと、眼鏡や検査との付き合い方をまとめます。
老眼の仕組み
目の中の水晶体は、近くを見るときに厚くなってピントを合わせます。この力が年齢とともに弱くなるのが老眼(老視)で、40代くらいから、近くを見る作業で目が疲れるようになります2。メニューを持つ腕が少しずつ伸びていくのは、たいていこの頃からです。

下がり方がいちばん急なのは、40歳前後です3。
ピントを合わせる力は、50歳でほぼ底をつく20歳のピント合わせの幅を10としたとき
| 年齢 | ピント合わせの幅 |
|---|---|
| 20歳 | 10 |
| 30歳 | 約9 |
| 40歳 | 約5 |
| 45歳 | 約2.5 |
| 50歳 | 約1 |
| 60歳 | ほぼ0 |
他覚的に測った調節力の研究をまとめた当てはめ式から計算した値です。
目の体操では、レンズは柔らかくならない
「目のトレーニングで老眼が回復する」という動画をよく見かけます。仕組みから考えると、私はこれは難しいと考えています。
ピントを合わせる筋肉(毛様体筋)は、MRIで調べると83歳の人でもきちんと縮んでいました4。硬くなっていたのはレンズのほうで、水晶体の中心部は14歳から78歳までに平均で約450倍も硬くなっていました5。筋肉を鍛えても、硬くなったレンズは形を変えられません。目の体操の研究をまとめた報告6の結論は、表のとおりです。
「老眼が治る」を確かめるよく見る主張と、研究でわかっていること
| 主張 | わかっていること | 判定 |
|---|---|---|
| 目の体操で老眼が治る | 目の体操の効果が支持されたのは、寄り目がうまくできない状態(輻輳不全)など一部だけ | × |
| 近視の人は老眼にならない | なる。もともと手元にピントが合いやすいので、気づくのが遅いだけ | × |
| ブルーライトカット眼鏡で目の疲れが取れる | 研究の結果が分かれている | △ |
年齢で変わる乱視
乱視は、角膜や水晶体のゆがみで、ピントが1か所に集まらない状態です7。若いころは縦方向にゆがむ乱視(直乱視)が多く、年齢とともに横方向の乱視(倒乱視)が増えていきます。福岡の眼科で868人の角膜を測った研究で、この入れ替わりがはっきり出ています8。
年齢とともに、乱視の向きが入れ替わる868人・1,660眼の角膜乱視(福岡)
| 年代 | 縦方向の乱視(直乱視) | 横方向の乱視(倒乱視) |
|---|---|---|
| 40歳未満 | 88.5% | 3.7% |
| 50代 | 55.9% | 22.9% |
| 70代 | 31.4% | 49.3% |
| 80歳以上 | 19.9% | 65.9% |
残りは斜めの乱視などです。
乱視は、円柱レンズという特別なレンズで補正します7。度数が変わっていくので、以前の眼鏡が合わなくなることもあります。手元用の眼鏡も、乱視があるなら眼科で測ってから作ると、見え方の無理が少なくなります。
夕方になると見えにくい
冒頭に書いたとおり、私の目も夕方になると見えにくくなります。理由は一つではありません。

画面を見ている間、まばたきの回数は平均で約5分の1に減ります9。目の表面が乾きやすくなり10、ドライアイのある人では、朝より夕方のほうが読む速さまで落ちていました11。大阪で画面を使う会社員561人を調べた研究では、ドライアイかその疑いがある人が男女とも半数を超え、1日8時間以上画面を見る人ほど多くなっていました12。
画面による目の疲れには、ピント合わせの負担と、目の乾きの2つの筋があります13。度数が合っていないと、夕方まで目が無理を続けることになります。
夕方に見えにくくなるときこんな日に、できること
| こんなとき | できること |
|---|---|
| 画面に向かう時間が長い日 | こまめに画面から目を離して休む |
| エアコンの効いた部屋 | 風が顔に当たらない席にする。加湿する |
| 眼鏡を作ったのが何年も前 | 眼科で度数と乱視を測り直す |
| 処方された眼鏡がある | かける(耳の痛い話です) |
| 乾き・かすみが毎日続く | 眼科でドライアイの治療を相談する |
眼鏡・コンタクト・手術・目薬
手元を見るための方法毎日の眼鏡とコンタクト
| 方法 | 向いている人・場面 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 手元用の眼鏡(老眼鏡) | 読書・書類・スマホなど、座って手元を見る時間 | かけたまま歩くと遠くがぼやける。乱視があれば眼科で測って作る |
| 遠近両用の眼鏡 | かけ外しを減らしたい人 | 慣れるまで、段差や階段では足もとに気をつける |
| 遠近両用のコンタクトレンズ | 眼鏡をかけたくない人 | 眼科で検査を受けて処方してもらう |
白内障の手術で選ぶレンズと、目薬は下で説明します。
遠近両用で階段を下りるとき
遠近両用の眼鏡で階段を下りると、足もとを手元用の部分で見ることになります。オーストラリアで63〜90歳の156人を1年追った研究では、遠近両用などをふだん使う人は、使わない人より転ぶ危険が2倍あまり高く、外出先と階段で多くなっていました14。
外を歩くときだけ遠く用の眼鏡にかけ替える試験では、よく外に出かける人で転倒が減りました。一方、あまり外に出ない人では、外での転倒がかえって増えていました15。かけ替えが役に立つかは、暮らし方によります。転びにくい体づくりは転ばない体は、脚とお尻からにあります。
老眼の目薬
米国では2021年、老眼の目薬(ピロカルピン)が承認されました16。試験では、15分ほどで効き始め、手元の見え方がよくなる人が増えましたが、8時間後には目薬なしとの差がはっきりしなくなっていました17。始めた人で網膜剥離が多かったという診療記録の報告もあります18。日本では、老眼の目薬は承認されていません2。
白内障の手術のときに選ぶレンズ
白内障の手術では、濁った水晶体の代わりに人工のレンズを入れます。このとき、遠くと手元の両方にピントが合う多焦点眼内レンズを選ぶこともできます。保険の手術に上乗せする形で、レンズの追加分は自費です19。眼鏡を使う場面は減りますが、光のまわりに輪が見える(ハロー)ことが3倍以上起きやすくなります20。手元の見やすさと光の輪のどちらを重く見るかで、答えは人によって違います。
40歳からの目の検査
「老眼だろう」と思っていたら、別の病気が隠れていた、ということもあります。岐阜県多治見市で40歳以上を調べた調査では、約20人に1人が緑内障で、10人に9人ほどはまだ見つかっていませんでした2122。緑内障は、日本人が途中で視力を失う原因の第1位です23。
自分では気づきにくい、目の病気40歳を過ぎて見え方が変わったら、一度は眼科で
| 病気 | どんな病気か | 気づき方 |
|---|---|---|
| 緑内障 | 視野が少しずつ欠ける | 初めはほとんど自覚がない。眼科で目の奥と視野を調べる |
| 加齢黄斑変性 | 見ているものの中心がゆがむ・暗くなる | 片目ずつ方眼の図を見る(アムスラー検査)。自宅でもできる |
| 白内障 | 水晶体が濁り、かすむ・まぶしい | 眼科の診察でわかる |
40歳を過ぎて視力に変化を自覚したら、一度は眼科で目の奥まで診てもらうのがよいと、私は考えています。緑内障は初めのうち自覚がないので、健診や人間ドックで目の奥の写真(眼底検査)を撮る機会があれば、受けておいてください。眼鏡を作り直すときは、ちょうどよい機会です。
見えにくさを放っておかないことは、頭のためにもなります。2024年の国際的な報告は、治療されていない視力低下を、認知症のなりやすさに関わる14の因子の一つに加えました24。認知症との関係は認知症の「なりやすさ」には、変えられるものがある、耳の話は聞き返しが増えたらにまとめています。
すぐ眼科へ行くとき
こんなときは、すぐ眼科へ老眼のせいにしない
| こんなとき | 考えられること |
|---|---|
| 急に見えなくなった、視野の一部にカーテンがかかったよう | 網膜剥離など |
| 黒い点や糸くずのような影が急に増えた、光がチカチカ走る | 網膜剥離の前ぶれのことがある |
| まっすぐな線がゆがんで見える | 加齢黄斑変性など |
| 目の痛みと頭痛、吐き気、かすみが一緒に来た | 急性緑内障発作のことがある。夜でも受診する |
網膜剥離には痛みがありません25。痛くないからと、様子を見ないでください。
まとめ
- 老眼は、水晶体が硬くなって起きる。目の体操ではレンズは柔らかくならない。
- 乱視は年齢で向きが変わる。眼鏡は眼科で測って作る。
- 夕方の見えにくさには、画面と乾き、合っていない度数が関わる。
- 遠近両用の眼鏡で階段を下りるときは、足もとに注意する。
- 40歳を過ぎて視力に変化を自覚したら、一度は眼科で目の奥まで。