アルツハイマー病では、アミロイドβ(ベータ)というたんぱく質のかけらが、長い年月をかけて脳にたまります。2つの薬は「抗体」と呼ばれる種類の薬で、アミロイドβにくっついて目印になり、脳の中の掃除役の細胞がそれを取り除くのを助けます。試験では、どちらの薬でも脳のアミロイドβが大きく減りました45。

ただ、認知症を治す薬ではありません。日本で認められている効き目も「進行抑制」で、進み方をゆるやかにすることです12。

使えるのは、物忘れが始まったばかりの段階の人に限られます。アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)か軽度の認知症で、検査で脳にアミロイドβがたまっていると確かめた人です12。認知症が中等度以上に進んだ人や、物忘れの症状がなく検査で見つかっただけの人には使いません。

年相応の物忘れとの見分け方や、MCIとはどういう状態かは、物忘れが気になったらに書いています。

進み方は、どのくらいゆるやかになるのか

どちらの薬も、1年半ほどの大きな試験で、偽薬(有効成分の入っていない点滴)と比べられました。薬を使った人のほうが、物忘れや暮らしの中での困りごとの悪化が小さくなっていました45。

それでも、薬を使った人も悪化はしています。止まったわけでも、元に戻ったわけでもありません。日本で実際に治療を受けている人を追った調査でも、認知症の程度を表す点数は少しずつ悪くなっていました6。

差の大きさをどう見るか

「認知症の新薬」という見出しは、たいてい中身より一足先を走っています。

この差の大きさの受け止め方は、専門家の間で分かれています。

世界中の試験を集めて評価するコクランという国際的な団体は、この種類の薬について、認知機能や認知症の重さへの効果は「ごく小さい」と結論しました7。本人や家族が暮らしの中で感じ取れる変化の目安より、差は小さいという指摘もあります8。

一方で、その目安は1人ひとりの変化を見るためのもので、2つのグループの平均の差に当てはめるのは筋が違う、という反論もあります8。日本と欧州、米国では、国の審査で利益が危険を上回ると判断され、承認されています12910。

今の時点では、どちらの見方にも根拠があります。長く続けた場合の効果は、まだ確かめている途中です11。

使える人と、相談の順番

国の指針では、次の条件をすべて満たす人が対象です12。

  • アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)か、軽度の認知症である
  • 物忘れの検査の点数と、認知症の重さの評価が、決められた範囲に入っている
  • アミロイドPETか脳脊髄液の検査で、アミロイドβがたまっていると確かめられた
  • MRIを撮ることができる

アミロイドPETは、弱い放射線を出す検査薬を使って、脳にたまったアミロイドβを画像に写す検査です。脳脊髄液の検査は、腰から細い針を刺し、脳と背骨のまわりを流れる液を少し採って調べます。MRIで脳のむくみや小さな出血の跡が多く見つかった人や、体に金属の医療機器が入っていてMRIを撮れない人には使えません12。

血液でアミロイドβを調べる検査もありますが、この薬を始める前の確認は、今のところPETか脳脊髄液の検査で行います12。血液の検査については血液で認知症がわかる時代?をご覧ください。

対象になるのは一部の人

物忘れで受診した人のうち、こうした条件をすべて満たすのは一部の人です。症状が進んでいる、アミロイドβがたまっていない、MRIで気⁠に⁠な⁠る所見がある、ほかの持病が重いなど、理由は人によって違い、いくつも重なることもあります12。

条件には病気の段階も入っているので、時間がたつと外れていく人がいます。日本の研究では、診断が遅れるほど、条件から外れる人が増えていました13。物忘れが気になったら早めに相談したほうがよい理由が、この薬にははっきりあります。

対象にならなかった人にも、できることはあります。聞こえや血圧、運動、人とのつながりについては認知症の「なりやすさ」には、変えられるものがあるに、予防をうたう方⁠法を確かめた研究については巷の認知症予防法を、研究で確かめるにまとめています。

相談の順番

  1. まず、かかりつけ医に相談します。物忘れの原因がほかの病気でないかを確かめ、必要なら専門の施設を紹介してもらいます14。
  2. もの忘れ外来や認知症疾患医療センターなど、脳神経内科・精神科・老年科の専門の医師がいる施設で、詳しい検査を受けます。
  3. この薬を使えるのは、国の指針の条件を満たした施設に限られます。始めてから6か月の間は、認知症を専門とする医師が複数いて、MRIで副作用を見守る体制のある施設で治療します。その後は、連携している別の施設で続けられることもあります12。

相談から治療までの流れまず、かかりつけ医から

順番どこで、何をするか
1 かかりつけ医物忘れの原因がほかの病気でないかを確かめ、専門の施設へ紹介する
2 専門の施設もの忘れ外来や認知症疾患医療センターなどで、物忘れの検査、認知症の重さの評価、MRI
3 アミロイドβの確認アミロイドPETか脳脊髄液の検査(連携する施設で受けることもある)
4 治療前の相談APOEの検査を受け、ARIAの起こりやすさもふまえて、始めるかを決める
5 治療条件を満たした施設で始め、決まった時期にMRI。6か月以降は連携する施設で続けられることもある

治療を始められるのは、国の指針の条件を満たした施設に限られます。

出典:厚生労働省「抗アミロイドβ抗体薬治療までの手順概要」/最適使用推進ガイドライン レカネマブ・ドナネマブ/認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン 第2版(2026年7月)
60代の娘と70代の母親が、自宅の居間のテーブルで、診療所でもらった説明の紙を一緒に読んでいる
60代の娘と70代の母親が、自宅の居間のテーブルで、診療所でもらった説明の紙を一緒に読んでいる

副作用と通院

ARIA(アリア)という副作用

この薬で特に気をつけたい副作用が、ARIAです。MRIで見つかる脳の変化で、脳のむくみと、小さな出血の跡の2種類があります。多くは症状がなく、MRIを撮ってはじめてわかります。頭痛やいつもと違う混乱が出ることもあり、まれに重くなります1516。

試験では、脳のむくみがレカネマブで8人に1人ほど、ドナネマブで4人に1人ほどに見られました45。治療を始めて最初の数か月に多く起きます11516。ドナネマブは、最初の量を少なくして段階的に増やす使い方に改められ、むくみが少なくなっています217。

そのため治療中は、決まった時期にMRIを撮ります。始めの数か月に何回か、その後は半年ごとです12。

APOEという遺伝子の型

ARIAの起こりやすさは、APOEという遺伝子の型で変わります。ε4(イプシロン4)という型を持つ人で多く、2つ持つ人では特に多くなります1518。

欧州では、ε4を2つ持つ人は対象から外されています9。日本では外されていませんが、治療を始める前にAPOEの検査をして、その結果をもとに話し合うことが勧められています。この検査は、2026年7月から健康保険で受けられるようになりました。ε4を持っていても、それだけで治療ができなくなるわけではありません18。APOEの詳しい話は認知症は遺伝子で決まる?に書いています。

点滴の間隔と、終える時期

2つの薬の使い方国の指針から

薬使い方
レカネマブ2週に1回、約1時間の点滴。原則18か月までとし、続けるかを18か月の時点で判断する。週1回、自宅で打てる皮下注射のペンも2026年に承認
ドナネマブ4週に1回、30分以上かけて点滴。少ない量から始めて増やす。12か月ごろのPETでアミロイドβが取り除けていれば終える
MRI(共通)始めの数か月に何回か、その後は半年ごと

皮下注射のペンへの切り替えの条件など、細かい使い方は主治医に確かめてください。

出典:厚生労働省 最適使用推進ガイドライン レカネマブ(令和5年12月)・ドナネマブ(令和6年11月、令和7年8月改訂)/医薬品医療機器総合機構 審議結果報告書(令和8年8月27日)

レカネマブは2週に1回、約1時間の点滴です。ドナネマブは4週に1回、30分以上かけて点滴します12。レカネマブでは6か月ごとに状態を確かめ、効果が期待できないときや、認知症が中等度まで進んだときはやめます1。

ドナネマブは、始めて12か月ごろにアミロイドPETを撮り、アミロイドβが取り除けていれば投与を終えます2。投与を終えても、治ったことにはなりません。アミロイドβは少しずつまたたまっていくと予測されています11。レカネマブは原則18か月までとされ、続けるかどうかを18か月の時点で改めて判断します1。

2026年には、レカネマブを週1回、皮膚の下に注射するペン型の薬も新しく承認されました。医師の指導を受けたうえで、自宅で本人や家族が打つことができます19。切り替えの条件など細かい使い方は、まだ決まっていない点もあるので、主治医に確かめてください。

費用と、治療中の注意

費用

薬代は高額です20。ただ、健康保険が使え、高額療養費制度によって、ひと月に窓口で払う自己負担には上限があります。上限は年齢と所得で決まり、2026年8月からは月の上限が見直され、1年間の上限も新しく設けられました21。自分の上限額は、加入している健康保険に確かめてください。

すぐに連絡したい症状

治療中に次のような症状が出たら、治療を受けている病院に連絡してください1618。

  • 頭痛
  • いつもと違う混乱や、ぼんやりした感じ
  • 見え方がおかしい、ふらつく、吐き気がする
  • けいれん、手足が動かしにくい、言葉が出にくい

ほかの病院にかかるとき

治療を始めると「治療カード」を受け取ります。いつも持ち歩いてください。ほかの病院で血をさらさらにする薬や、血のかたまりを溶かす薬を使うことになったときは、必ずカードを見せて伝えます12。脳梗塞の治療で血のかたまりを溶かす薬を使ったあと、脳に出血が起きた報告があります22。救急で受診するときも、この薬を使っていることを伝えてください。

血をさらさらにする薬(抗凝固薬)をふだん飲んでいる人には、米国の専門家の推奨ではデータがそろうまで使わないとされ、欧州でも対象外です。日本では使えないとはされていませんが、始める前に主治医とよく相談してください1910。

亡くなった例の報告

ARIAの多くは症状のないものです。ただ、試験やその後の使用の中で、まれに、脳のむくみや出血によって亡くなった例が報告されています23。一方で、この種類の薬の試験をまとめた評価では、死亡が増えるという結果にはなっていません7。

治療を始めるかどうかは、期待できる効果の大きさと、こうした危険、通院の負担を合わせて、本人と家族、主治医とで話し合って決めます10。