避けている気持ちが、外出を減らす
先日の帰り道、YouTubeで、ジョー・ハドソン氏の話を聴きました。米国で10年以上ベンチャー投資の仕事をしたあと、Art of Accomplishmentという会社を立ち上げ、企業の経営者などのコーチをしている人です12。
彼の話の中心は、こういうものでした。感じたくない気持ちを避けようとすると、その避け方そのものが、かえってその気持ちを呼び込んでしまう。
彼が挙げた例は「頼れない人」です。子どものころから何でも自分でやってきた人は、助けを求めると無力な自分を感じてしまうので、人に頼りません。スーパーで探し物が見つからなくても店員さんには聞かず、献立のほうを変えてしまう。心当たりのある方もいるのではないでしょうか。
50歳からは、杖や補聴器で起こる
50歳を過ぎると、同じことが杖や補聴器で起こります。米国で65歳以上の人に話を聞いた研究では、杖や歩行器が自立を助けると分かっていても、「年寄りに見える」という気持ちが使うのをためらわせていました3。
ところが使わずに転ぶのが怖くなれば、出かける回数が減ります。聞き返すのが気まずくなれば、人の集まりから足が遠のきます。無力な自分を感じないための我慢が、できることを狭めていくのです。
聞こえは聞き返しが増えたら ― 50代からの聞こえと補聴器、転びにくい体づくりは転ばない体は、脚とお尻からにまとめています。
ハドソン氏の答えは、避けている気持ちを敵にしないことでした。そのための入り口として、彼は「1週間だけ試す、小さな実験」をすすめています。
実験1:ありがとうを伝える
3つの実験と、研究でわかっていることハドソン氏の提案を、研究と照らし合わせて
| 実験 | やること | 研究でわかっていること | 確かさ |
|---|---|---|---|
| ありがとうを伝える | してもらったことを思い出し、1日に何人かに伝える | 伝えた側の気分が少し上がる。受け取った側は、伝えた人の予想よりずっと喜ぶ | 効果は小さいが一貫 |
| いまを少し多く楽しむ | していることは変えず、楽しみ方だけを意識する | 60歳以上の1週間の試験で、きちんと続けた人は気分が上向いた | 小さな試験のみ |
| 頭の中の声に、返事を変える | 自分を責める声への返し方を、2日ごとに試す | 自分を名前や「あなた」で呼ぶと、緊張する場面で落ち着きやすい | 実験では確か |
どれも、心の不調の治療の代わりにはなりません。
1日に何人か、自分のために何かしてくれた人を思い出して、ありがとうと伝えます。ハドソン氏は「頼れない人」にこそ、これをすすめていました。人の助けで暮らしが回っていることが、いやでも目に入るからです。
研究では、感謝を書き出したり伝えたりした人は、何もしなかった人より気分が少し上向いていました45。ただ、ほかの前向きな取り組みと比べると差はなく、感謝だけが特別に効くわけではなさそうです5。
面白いのは伝えられた側です。感謝の手紙を書いた人は、相手がどれくらい喜ぶかを低く見積もり、気まずがられると考えすぎていました6。急に「ありがとう」と言われた家族は、少し怪しむかもしれません。それでも、思っているよりは喜んでいます。
実験2:いまを少し多く楽しむ
していることは何も変えずに、楽しみ方だけを少し増やしてみます。お茶を飲む、歩く、人と話す。1日に何度か「いつもより少し楽しむとしたら」と自分に聞いてみます。
研究では「味わう」と呼ばれる取り組みです。米国で60歳以上の111人が1週間試した試験では、きちんと続けた人ほど、落ち込みが軽くなり、気持ちの立ち直りやすさも上がっていました7。ただ、比べる相手のいない小さな試験なので、確かさはまだ低めです。
ハドソン氏は、もう一歩進んだ実験も紹介していました。1週間、楽しめないことはしない。ゴミ出しが嫌いでもゴミの匂いはもっと嫌なので、結局「ゴミ出しをどう楽しむか」を考えることになる、という話です。暮らしの中で本当に嫌なのはどれかを知る実験です。仕事や介護を抱える方は、休日1日から試すくらいで十分です。
実験3:頭の中の声に、返事を変える
「また失敗した」「どうしてこうなんだ」。自分を責める声は、たいてい同じことを繰り返します。ハドソン氏は、声を黙らせようとするより、返し方を変えるほうが楽だと言います。
「そんなに怖いんだね」と受け止めてみる。「その言い方はひどい」と言い返してみる。2日ごとに返し方を変えて、声がどう変わるかを観察します。声が言うことを紙に書き出し、本当ではない理由を探すのも一つの方法です。見つからなければ、友人に聞いてもよいと彼は言います。
これに近いことは研究でも確かめられています。考え事をするとき、自分の名前や「あなたは」で自分に話しかけた人は、「私は」で考えた人より、人前で話すような場面で落ち着いていて、出来もよいと評価されました8。自分を少し外から見ることになるからだと考えられています。
「実験」と呼ぶ理由
3つとも、1週間で終わる「実験」です。うまくいかなかったら、自分について一つ分かったことになります。だから続けやすいのだとハドソン氏は言います。三日坊主になりがちな方にも、合う考え方だと思います。
気をつけたいとき
ここで紹介した実験は、心の不調の治療の代わりにはなりません。落ち込みや、何をしても楽しめない状態が2週間以上続くときは、早めに相談してください。相談先は休んでいるのに、休まらないにまとめています。