ただし、これは症状のある人を専門の医師が調べたときの話です。米国で初めて承認された血液検査も、対象は物忘れなどの症状がある人です3。日本の6つの学会がまとめたガイドラインは、症状のない人に血液検査をすべきではないとしています4。

日本では、承認された血液検査はありますが自費です。2026年10月時点で、保険で受けられる認知症の血液検査は確認できませんでした45。

人間ドックのついでに受けておこう、と考えている方は、先にこの記事を読んでみてください。

血液で何を測っているのか

アルツハイマー病では、症状が出る何年も前から、脳にアミロイドβ(ベータ)というたんぱく質がたまり始めます。続いて、神経細胞の中のタウというたんぱく質にも変化が起きます。どちらも、ごくわずかな量が血液にも出てきます6。

血液で何を測っているのか検査の種類と、いまの位置づけ

測るものいまの位置づけ
p-tau217(タウの一種)、p-tau217とアミロイドの比症状のある人で、専門医がPET・脳脊髄液の前に使う
アミロイドの比(Aβ42/40)日本で承認された検査がある(自費)。p-tau217 より精度は低い
NfL(神経の傷み)、GFAP(脳の反応)研究の段階。NfL はほかの病気でも上がる
栄養・炎症にかかわる3つのたんぱく質(「MCIリスク」検査)アミロイドは測っていない。将来を当てられるかは確かめられていない
遺伝子(APOE)体質を調べる検査。別の記事で
出典:日本の6学会「認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカーの適正使用ガイドライン 第3版」2025-03-31 §5・§9/Ashton NJ, et al. Nat Commun 2021;12:3400/Pereira JB, et al. Brain 2021;144:3505-3516/Uchida K, et al. Alzheimers Dement (Amst) 2015;1:270-80/一般向け「MCIリスク」検査の結果報告書見本(2019・2020年版)

いま症状のある人の診断に役立つと認められているのは、タウの一種である p-tau217 と、それとアミロイドの比を測る検査です。日本のガイドラインも、この種類を「臨床で活用できる」としています4。神経の傷み(NfL)や脳の反応(GFAP)を測る項目は、まだ研究の段階です。NfL はアルツハイマー病以外の病気でも上がります47。

健康な人向けに売られている「MCI(軽度認知障害)のリスク」を調べる血液検査は、これらとは別のものです。よく見かける検査の一つは、アミロイドそのものではなく、栄養や炎症、脂質の運び役にかかわる3つのたんぱく質を測り、リスクを段階で示します8。結果の報告書にも、診断ではないこと、栄養状態や炎症の病気で値が変わることが書かれています8。

この検査のもとになった研究は、すでに MCI と診断された人と健康な人とを比べたものです9。健康な人を何年も追いかけて、将来の MCI や認知症を当てられるかを確かめた研究は、見つかりませんでした。

遺伝子(APOE)を調べる検査については、認知症は遺伝子で決まる?にまとめています。

症状のある人には、PETに近い精度

物忘れで受診したスウェーデンの1,213人を調べた研究では、血液の p-tau217 で、脳のアルツハイマー病の変化をかなり正確に見分けられました1。別の研究では、アミロイドPET(脳にたまったアミロイドを画像で見る検査)の結果を、承認済みの脳脊髄液(背中から針で採る液)の検査と同じくらいよく当てていました2。

PETは費用がかかり、受けられる施設も限られます。脳脊髄液の検査は、背中に針を刺します。その前に血液で見当をつけられれば、体への負担が少なくて済みます。

ただし、血液検査ならどれも同じ、というわけではありません。31種類の検査を比べると、精度には大きな幅がありました10。米国の学会のガイドラインは、使ってよい精度の基準を示し、市販の検査の多くはその基準を満たしていないと注意しています10。

日本のガイドラインが示す使い方は、次のとおりです4。

  • 物忘れなどの症状があり、認知機能の低下が疑われる人に行う
  • 認知症にくわしい専門医が、検査の前後に十分に説明して行う
  • 陽性なら、PETや脳脊髄液の検査で確かめる

血液検査は、アルツハイマー病の新しい薬を使うかどうかを決める前の、最初のふるい分けとして考えられています。薬については認知症の新しい薬をご覧ください。

日本では、血液でアミロイドを調べる検査が2つ承認されていますが、どちらも自費です45。p-tau217 を測る検査の承認申請も出ています11。2026年10月時点で、保険で受けられるものは確認できませんでした。

症状のない人が受けると

検査の精度は、症状のある人で確かめられたものです。同じ検査を症状のない人が受けると、結果の重みが変わります。

物忘れのない50歳でも、10人に1人ほどは、脳にアミロイドがたまっています6。この人たちが、ガイドラインの基準を満たすほど正確な検査を受けたとして、数えてみます。

100人が同じ検査を受けると、陽性は何人?精度の高い検査(感度・特異度とも90%)だったとして

本当にたまっているたまっていない(はずれ)

物忘れのない50歳の100人
9.00年差 約9年
平均寿命 18.00年
物忘れで専門外来に来た100人
45.00年差 約5年
平均寿命 50.00年

50歳の100人では、アミロイドがたまっている人は10人。陽性18人のうち9人ははずれです。専門外来の100人では、たまっている人が50人。陽性50人のうち45人が当たりです。症状のない人で検査がこの精度を出せるかは、確かめられていません。

出典:計算の前提:アミロイド陽性の割合 Jansen WJ, et al. JAMA 2015;313:1924-38(認知機能正常の50歳で10%)/Palmqvist S, et al. JAMA 2024;332:1245-1257(物忘れで受診した人の50%)。検査の精度は Palmqvist S, et al. Alzheimers Dement 2025;21:e70535 と日本の6学会「脳脊髄液・血液バイオマーカーの適正使用ガイドライン 第3版」(2025)が求める基準(感度・特異度90%)。陽性の当たる割合が集団で変わることは同ガイドライン §11。症状のない人での血漿モデルの正確さは81%(Allué JA, et al. Alzheimers Dement (Amst) 2023;15:e12451)

健康な50歳の100人では、陽性と出る人のうち、本当にたまっているのは半分ほどです。物忘れで専門外来に来た100人なら、陽性の人のほとんどは本当にたまっています。検査は同じでも、誰が受けるかで「陽性」の意味が変わります4。

さらに、アミロイドがたまっていても、一生認知症にならない人のほうが多いと考えられています12。アミロイドに加えてタウもたまっている人では、物忘れが進みやすいこともわかっています13。

早く見つければ早く治療できる、とも言えません。症状のない段階で、物忘れの進みを遅らせると確かめられた薬はまだありません。症状のない人に薬を使った大きな試験では、期待ほどの効果は確認されませんでした14。いまも試験が続いています15。

アミロイドがあるだけで「アルツハイマー病」と呼ぶかどうかは、専門家の間でも意見が分かれています16。日本のガイドラインは、症状のない人の発症の予測を目的にした検査を「不適切」としています4。生命保険の契約や就職の健康診断に使うことも、同じく不適切とされています4。

結果を知ったあとの気持ちについては、研究があります。検査の前後に専門家から丁寧な説明を受けた人では、陽性と知っても、短い期間でみると気分の落ち込みや不安は増えていませんでした。それでも、「認知症になるのでは」という心配は増えていました17。説明もその後の相談もない結⁠果⁠票だけで同じことが言えるかは、調べられていません。

物忘れが心配なときに、まずすること

血液検査が役立つ人、まだ早い人日本の6学会のガイドラインから

あなたの状況まずすること
物忘れはない受けることは勧められていない。生活の見直しと、ふだんの健診を
自分では気⁠に⁠な⁠るが、診察では低下が見られない血液検査は勧められていない。かかりつけ医で様子をみる
診察で認知機能の低下があり、アルツハイマー病が疑われる専門医が必要と判断すれば受ける。陽性ならPETや脳脊髄液で確かめる

生命保険の契約や就職の健康診断に使うことも、不適切とされています。

出典:日本の6学会「認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカーの適正使用ガイドライン 第3版」2025-03-31 §9・§10/U.S. FDA press release 2025-05-16

物忘れが気⁠に⁠な⁠るときに役立つのは、検査より診察です。物忘れには、甲状腺のはたらきの低下や、ビタミンB12の不足、うつ病、薬の影響など、治療で良くなるものがあります。まずかかりつけ医に相談し、必要ならもの忘れ外来や認知症疾患医療センター(脳神経内科・精神科・老年科など)を紹介してもらいます。見分け方と相談先は物忘れが気になったらにまとめています。

自分では物忘れが気⁠に⁠な⁠るけれど、診察では低下が見られない。この場合に血液検査を受けることも、日本のガイドラインは勧めていません4。

自宅の居間で、60代の夫婦が健康診断の結⁠果⁠票を一緒に見ながら話している
自宅の居間で、60代の夫婦が健康診断の結⁠果⁠票を一緒に見ながら話している

「リスクが高い」と言われた方へ

すでに自費の検査を受け、結⁠果⁠票に「リスクが高い」と書かれていた方もいると思います。受けたこと自体を気に病む必要はありません。

その判定は、認知症や MCI の診断ではありません。アミロイドを測る検査でない場合、栄養状態や炎症などでも値が変わります8。アミロイドを測る検査で陽性でも、症状がなければ、一生認知症にならない人のほうが多いと考えられています12。

一方で、「心配しなくてよい」という保証でもありません。物忘れが気になっているなら、結⁠果⁠票を持ってかかりつけ医に相談してください。物忘れの症状があるかどうか、治療で良くなる原因がないかを診てもらえます。必要があれば、もの忘れ外来につないでもらえます。

数日のうちに急にぼんやりする、頭を打ったあとに物忘れや歩きにくさが出てきた、というときは、検査の結果にかかわらず早めに受診してください(物忘れが気になったら)。

検査を待たずにできること

血圧や聞こえ、体を動かすこと、人とのつながりなど、認知症のなりやすさにかかわる因子には、変えられるものがあります。くわしくは認知症の「なりやすさ」には、変えられるものがあるを、世の中で言われる予防法の確かさは巷の認知症予防法を、研究で確かめるをご覧ください。

70代の女性が娘と並んで歩き、近所の診療所の入り口に向かっている
70代の女性が娘と並んで歩き、近所の診療所の入り口に向かっている