認知症との関係は、認知症の「なりやすさ」には、変えられるものがあるにまとめています。ここでは、毎日の聞こえそのものの話をします。
聞こえは、40代から少しずつ下がる
聞こえは、一般に40代から下がり始めます。65歳を過ぎると聞こえにくい人が急に増え、75歳以上では約半数が聞こえにくさを感じているといわれます1。日本の地域の人たちを実際に測った研究では、65〜69歳で、男性の5人に2人、女性の3〜4人に1人が難聴でした2。
少しずつ進むので、本人より先に、家族が気づくこともよくあります。厚生労働省は、次のようなサインがあれば一度受診を、としています1。
聞こえの変化は、こんなところに出る当てはまれば、一度耳鼻咽喉科へ
| 場面 | サイン |
|---|---|
| 会話 | 聞き間違いや聞き返しがある/相手の言ったことを推測で判断する/集会や会議など数人での会話が聞き取れない |
| 周りに言われる | 話し声が大きいと言われる/家族からテレビやラジオの音量が大きいと言われる |
| 身の回りの音 | 後ろから呼ばれて気づかない/車の接近に気づかない/電子レンジやチャイムの音が聞こえにくい/時計のアラームなど高い音が聞き取りにくい/音のする方向がわかりにくい |
| 耳の症状 | 耳が詰まった感じが抜けない/「ワーン」「キーン」という耳鳴りが1日以上続く/音が割れたように聞こえる |
急に聞こえにくくなったときは、様子を見ずに早く受診を。
健診の聴力検査で、わかること・わからないこと
職場の健康診断では、聴力の検査があります。調べるのは、低めの音と高めの音の2つが聞こえるかどうかです。45歳以上と35歳・40歳の人は、毎年この検査を受けます3。
これは、ふるい分けの検査です。「所見なし」でも、会話の聞き取りで困っていることがあれば、相談してかまいません。
まず耳鼻咽喉科へ。治せる難聴もある
聞こえにくいと感じたら、最初に行くのは補聴器の店ではなく、耳鼻咽喉科です。
耳あかが詰まっているだけのこともあります4。中耳炎、鼓膜の穴、耳硬化症などは、治療や手術でよくなることがあります5。年齢による難聴(加齢性難聴)は、今のところ治す方法がありません。それでも、補聴器で聞こえを補うことができます5。
補聴器が必要か、効果があるかは、自分や家族では決められません。聴力の検査と、ふだんの生活の音の環境から判断します6。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、補聴器に詳しい医師を補聴器相談医として委嘱していて、学会のサイトで探せます6。
急に片耳が聞こえなくなったら、様子を見ない
朝起きたら、片方の耳が聞こえにくい。耳が詰まった感じや、耳鳴り、めまいがある。突発性難聴のことがあります7。
原因はまだわかっておらず、治療の効き目も確かとは言えません。それでも、発症してすぐに治療を始めたほうが、聞こえが戻りやすいと報告されています7。米国の診療指針も、2週間以内の治療を選択肢に挙げています8。寝不足や疲れのせいだと思って、様子を見ないでください。ろれつが回らない、顔がしびれるなどが重なるときは、脳梗塞など別の病気のことがあり、救急車を呼びます7。
補聴器で、何が変わるか
試験をまとめると、補聴器の確かな効果は聞き取りと生活の質で、孤独感や認知症への効果ははっきりしません91011。補聴器をつける理由は、認知症予防でなくてかまいません。聞こえて、話が通じること自体が、いちばん確かな効果です。
補聴器で、研究がわかっていること軽い〜中くらいの難聴の大人を対象にした試験から
| 調べたこと | 結果 | 確かさ |
|---|---|---|
| 聞き取り | 大きく良くなる | 中くらい |
| 会話や外出に関わる生活の質 | 大きく良くなる | 中くらい |
| 生活の質全体 | 少し良くなる | 低い |
| 話をする相手の数(3年) | 約1人多く保たれた | 1つの試験の二次解析 |
| 孤独感 | ほぼ差がない | 低い |
| 記憶 | よくわからない | とても低い |
| 認知機能の低下(3年) | 全体では差がない(危険の多い人では差) | 1つの大きな試験 |
いちばん確かなのは、聞こえて、話が通じること。
日本では、補聴器を持つ人が少ない
補聴器メーカーの団体が行った調査では、聞こえにくさを感じている人のうち、補聴器を持っているのは約7人に1人でした。45〜64歳では、約15人に1人です12。
聞こえにくくても、補聴器を持つ人は少ない聞こえにくさを感じている人の割合と、そのうち補聴器を持つ人(2022年)
| 年代 | 聞こえにくいと感じる人 | そのうち補聴器を持つ人 |
|---|---|---|
| 45〜64歳 | 45〜54歳 5.5%・55〜64歳 8.9% | 6.7% |
| 65歳以上 | 65〜74歳 14.9%・75歳以上 34.4% | 17.6% |
| 全体 | 10.0% | 15.2%(約7人に1人) |
補聴器メーカーの団体によるインターネット調査(14,061人、自己申告)。聞こえにくさに気づいてから補聴器まで、約2〜3年かかっていました。
同じ調査で、聞こえにくさに気づいてから補聴器を手に入れるまで、2〜3年かかっていました。補聴器を持つ人の半分が「もっと早く使えばよかった」と答え、理由のほとんどは「人づきあい」でした12。
補聴器は「買う」より「合わせる」
補聴器は医療機器で、買ったときの調整とそのあとの点検が欠かせません131。認定補聴器技能者は、公的な団体の認定を受けた調整の専門家で、技能者に調整してもらった人ほど満足していました1213。
補聴器は「買う」より「合わせる」手に入れるまでの5つの段階
| 段階 | すること |
|---|---|
| 1. 耳鼻咽喉科 | 補聴器相談医の診察と聴力検査。治せる難聴かどうか、補聴器が必要かを確かめる |
| 2. 提供書 | 補聴器が必要なら「補聴器適合に関する診療情報提供書」をもらう(医療費控除に使う) |
| 3. 技能者の店で試す | 認定補聴器技能者のいる店で、試しながら調整する。家族も一緒に |
| 4. 3か月の慣らし | 毎日つけ、1〜2週間ごとに調整を受ける |
| 5. 定期点検 | 聴力の検査と補聴器の点検を続ける |
店で買った補聴器や通信販売には、基本的にクーリング・オフが効きません。
店で買った補聴器や通信販売の補聴器には、基本的にクーリング・オフが効きません。お試し期間と返品の条件を、買う前に確かめます1314。
店頭で「早く補聴器をつけないと認知症になる」と勧められ、40万円近くで購入したあと、耳鼻咽喉科で「聞こえは正常」と言われた、という相談も寄せられています14。
家電量販店や通信販売でよく見る「集音器」は、補聴器とは別のものです。
集音器は、補聴器の代わりにならない形は似ていても、別のもの
| 補聴器 | 集音器 | |
|---|---|---|
| 医療機器か | 管理医療機器 | 医療機器ではない |
| 何のためのものか | 難聴の人が、会話をはっきり聞くため | 難聴の人が補聴の目的で使う商品ではない |
| 一人ひとりの調整 | 聴力に合わせて調整する | 調整のしくみはない |
| 医療費控除 | 補聴器相談医の提供書があり、認定補聴器専門店で買えば対象 | 対象外 |
使い始めは「うるさい」のが普通
補聴器は、メガネのように、つけた瞬間からよく聞こえるものではありません。聞こえにくい状態に慣れていた耳と頭には、ふだんの生活の音さえ、うるさく感じられます15。
うるさいのは最初だけ。慣らしは3か月補聴器を使い始めてから
| 時期 | すること |
|---|---|
| 最初の1〜2週間 | うるさく感じるのは普通。必要な音量より少し控えめから |
| 毎日 | 朝起きてから寝るまでつける。家族や友人と話す、外に出る |
| 1〜2週間ごと | 店や医師で、聞こえ具合を確かめて調整 |
| 3か月ほど | 慣れてきたら、ことばの聞き取りの検査も |
| そのあと | 定期的に聴力の検査と補聴器の点検 |
「うるさいからしまう」前に、店と医師に相談を。
補聴器を持っていても、まったく使っていない人が10人に1人ほどいます12。「うるさいからしまう」前に、店と医師に相談してください。
お金のこと ― 使える制度がある
補聴器のお金には、使える制度がある価格の目安と、3つの支え
| 内容 | |
|---|---|
| 価格の目安 | 片耳10万〜30万円が多い。高ければよいというものではない |
| 医療費控除 | 補聴器相談医の提供書+認定補聴器専門店での購入で対象。医療費の合計が10万円(所得200万円未満は所得の20分の1)を超えた分 |
| 身体障害者手帳 | 両耳70デシベル以上など重い難聴なら、購入費の支給がある |
| 区市町村の助成 | 60歳以上などを対象に助成するところがある。多くは購入前の申請が必要 |
制度の詳細は、税務署・お住まいの区市町村へ。
どの制度も、買う前の手続きが要になります。医療費控除には補聴器相談医の提供書が要り、写しと領収書を保管します161718。手帳の支給や区市町村の助成も、多くは購入前の申請が必要です19620。お住まいの役所に問い合わせてください。
家族や職場で ― 話し方の工夫
聞こえにくい人と話すとき、ちょっとした工夫で、伝わり方が変わります1。親の聞こえが気になる人にも、職場で聞こえにくい同僚がいる人にも、役立ちます。
聞こえにくい人と話すときは家族にも、職場にも
| 工夫 | 例 |
|---|---|
| 正面から | 口の動きが見えるように、顔を向けて話す |
| ゆっくり、はっきり | 大声より、区切ってはっきり |
| 言い換える | 4(し)→よん、7(しち)→なな、20日(はつか)→にじゅうにち |
| 静かな場所で | テレビを消してから話す |
「聞こえの常識」を確かめる
聞こえや耳鳴りについては、動画や広告でさまざまな話を見かけます。主なものを、研究や公的な資料で確かめました。
「聞こえの常識」を確かめる○=研究で支持 △=一部だけ ×=研究と合わない
| よく見る話 | わかったこと | 判定 |
|---|---|---|
| 補聴器をつけると耳が悪くなる | 試験で、補聴器による難聴の報告はなかった | × |
| 耳の体操やツボで聞こえが戻る | 年齢による難聴に、治す方法はまだない。体操で戻った試験は見つからない | × |
| サプリで耳鳴りや難聴が治る | イチョウ葉・亜鉛・抗酸化成分の試験で、効果ははっきりしない | × |
| 補聴器で認知症が防げる | 大きな試験で、全体としては差がなかった | △ |
| 集音器で十分 | 医療機器ではなく、難聴の人が使うものではない | × |
| 高い補聴器ほどよく聞こえる | 価格より調整が大事 | × |
| 健診の聴力が「所見なし」なら大丈夫 | 2つの音のふるい分け。会話で困っていれば相談を | △ |
| 片耳の急な難聴は、様子を見てよい | 早く治療を始めたほうが、聞こえが戻りやすい | × |
| 補聴器はつければすぐ聞こえる | 慣れるまで3か月ほどかかる | × |
表のサプリメントの試験は、イチョウ葉・亜鉛・抗酸化成分のものです212223。広告の読み方は、サプリメントの広告を読むにあります。
こんなときは、受診を
急な難聴は、様子を見ない症状ごとの受診の目安
| こんなとき | どうする |
|---|---|
| 聞こえの低下に、ろれつが回らない・顔のしびれ・飲み込みにくさ | 救急車を呼ぶ |
| 急に片耳(または両耳)が聞こえにくい。耳の詰まり、耳鳴り、めまい | 早く耳鼻咽喉科へ |
| 耳の痛み、耳だれ、熱 | 耳鼻咽喉科へ |
| 片耳だけがだんだん聞こえにくい。片側の耳鳴りが続く | 耳鼻咽喉科へ |
| 聞き返しが増えた。音量を指摘される | 急がないが、一度測る |
突発性難聴は、早く治療を始めたほうが聞こえが戻りやすいと報告されています。
まとめ
- 聞こえにくいと感じたら、まず耳鼻咽喉科。治せる難聴もある。
- 急に片耳が聞こえなくなったら、様子を見ずに早く受診。
- 補聴器の確かな効果は、聞き取りと生活の質。
- 補聴器は技能者の店で試して合わせ、3か月かけて慣らす。
- お金の制度は、買う前に確かめる。